終ノ刻印

第122話 深夜の決戦①

終ノ刻印 第三章 帰する刻印編 第122話

     /茜

 響き渡った剣戟に、私は顔を上げた。
 こっちを心配そうに見つめる由羅と、イリス。
 その向こうで真斗と柴城が戦っている。

「茜……」

 表情を曇らす由羅の顔を見て、きっと今の自分はひどい顔をしているのだろうと思った。
 ――本当に久しぶりに、泣いてしまった。
 もう、涙はいい。

「すまない……」

 由羅の手を借りて、立ち上がる。

「茜。真斗はわたしに貴女を守れって」
「……ああ」

 イリスが引いて、真斗が出た。
 ちょっと意外だった気もした反面、そうなるのが当たり前だったような気もする。

「――そうしてくれ。私は、あいつを倒す」

 視線の先には、泪の姿。
 絶対に許せない相手。

「手出しはしないで欲しい」
「邪魔させなければいいのね?」

 珍しく由羅が、胸中を察した言葉を口にする。

「あとの連中は、二人に任す」
「そうする」

 頷く、由羅とイリス。

「――相談はすみましたか?」

 余裕のある泪の言葉は、それだけで挑発に思えた。
 高ぶってくる戦意を抑えながら、努めて冷静に見返す。

「後悔させてやる」
「不要な人格ですね。すぐにも――ナウゼル・ディーネスカ、彼を覚醒させて差し上げましょう」
「やってみろ!」

 叫び、私は泪へと飛び掛る。

「――愚か者め!」

 その間に割って入る、ザイン。
 振りかざした剣が、私を狙う。
 しかし気にしなかった。なぜなら――

「ぬ!?」

 ギィン!
 剣を弾かれ、ザインは圧し戻される。

「小娘が!」
「――邪魔だよ」

 死神の鎌タルキュートスを振るい、追撃するイリス。
 放たれた一振りが、地面を切り裂く。
 それを避け、ザインは反撃するが、イリスに届くことは無く、退くしかなかった。

「貴様……」

 間合いを置き、ザインとイリスは睨み合う。

「茜を泣かせたんだもの。……絶対に許さないから」
「ほざけ!!」

 イリスの殺気を振り払い、ザインは再びイリスとぶつかり合った。

     ◇

 ゴッ!

 由羅に殴り飛ばされたアトラ・ハシースの一人が、地面を転がっていく。
 追い討ちをかけようとしたところで別の一人が迫り、由羅は一旦飛び跳ねて距離をとってから、更に迫ったまた別の一人をなぎ払う。

「――私、怒ってるんだからね!」

 周囲に群がる連中をねめつけながら、由羅が声を上げる。

「邪魔はさせない――絶対に!」

 宣言し、自分へと放たれた炎の咒を素手で払いのけ、アトラ・ハシースの一人の懐まで飛び込むと、下から容赦無しの蹴りを放った。
 アトラ・ハシースがどんなに強化しているといっても、由羅の馬鹿力の前では話にならない。
 そいつは内臓破裂を起こして吹き飛び、地面で血を吐きのたうち舞う。
 ただの人間であれば、即死している一撃だ。
 肉弾戦ではとても歯が立たないと考えたのか、アトラ・ハシースは戦法を変え、咒法による遠距離攻撃へと切り替える。

「……もう!」

 四方八方から放たれる咒法に手を焼きながらも、由羅は誰一人とて私に近づけさせることはなかった。

     ◇

 後方に憂いは無い。
 私は構わずに、泪へと飛び込んだ。

「――ふん」

 短剣の一撃をかわし、泪は後方に跳んで咒言をささやく。

「――〝闇の声・偽りの光・ロアドの爪痕ルリラ・ロウ・カルテア・ザ・アルネルド〟」
「くっ――〝ゼウザの楼閣〟!」

 こちらに一直線に伸びる光熱波を、防御の咒がはじき散らす。

「〝レデスの矢〟!」

 衝撃が完全に収まらない間に、私は泪に目掛けて新たな咒法を撃ち放った。

「――そのようなもの」

 泪は冷笑すると、片手を差し出し炎を絡め取ると、そのままあらぬ方向へと吹き散らしてみせる。
 その手には火傷一つ無い。
 それだけを見ても分かる。
 この女は相当な咒法の使い手だ。
 恐らく姉さまにも引けを取らぬほどの。

 上等だ。
 私だって、咒法において姉さまに引けをとっているとは思わない。
 ――ましてやこんな女に!

「その余裕の顔、いつまで続くか試してやる」
「できるのならば、ご自由に」
「ふん――〝カウティーンの罪悪〟よ!」

 溢れ上がる、巨大な熱波。
 手加減無しの一撃だ。

「――〝後悔の海・懺悔の原・エインの言霊オルラウン・ラウ・クリステア・エルエヌド〟」

 真正面から二つの咒法がぶつかり合う。
 二つは激しくぶつかり合い、削り合い、その場で暴発する。

 ――互角か!
 結果を即座に判断し、私は死裁の銃身ゼオラルーンをこの場に顕現させた。
 地を蹴って飛び上がり、泪を狙って引き金を引く。
 銃身より放たれた光の弾は、まっすぐに泪へと撃ち込まれる。
 しかし泪はそれをかわし、にやりと笑った。

「――その武器を前に、素手では少々きついですからね。こちらも」

 武器を用意する気か!
 しかしそんな猶予は与えない。
 私は構わず、光の弾を連発した。

「〝復讐の手・怨嗟の足・シスアの頭ゲイン・コードリア・アセシス・ハービィザス〟――!」

 言葉と共に発生したのは、闇のカーテンとも呼ぶべきものだった。
 数発の光を呑み込み、包み込んで消滅させる。
「――ふふ。観念なさい。九曜茜」
 闇のカーテンが開いたその時には、泪の手に何かが握られていた。

「――白魔七星の杖ヘルシオン。お父様の残された遺産の一つ」

 泪は微笑むと、その杖を振るう。

「これで終わりです。九曜茜さん」

     /真斗

「おおおおっ!」

 所長――柴城の猛攻の前に、俺は必死になって剣風を耐え忍んでいた。
 足場の悪い林へと徐々に場所は移っていったが、俺も柴城も構うこと無く剣を打ち振るう。

「ち………!」

 まさに剣の嵐だ。
 ザインとはまた違う、その太刀筋。
 腕が振るわれるたびに、冗談のように木が切断され、その場に倒れていく。
 反撃する。

「エクセリア!」

 一瞬、力が増す。
 その瞬間を狙って打ち据える!
 ガギィイイン!
 飛び散る火花。

「ほう、やるな」

 にやりと柴城は笑う。

「だが――」
「くっ!」

 思い切り後方へと下がる。

「踏み込みがまだ足りん!」

 グオォ!

 横薙ぎに振るわれた剣は、そのまま剣圧を作り出し、距離を置いた俺へと追いすがる。

「ざけんな!」

 打ち払う。
 再びお互いに飛び込み、剣戟が響き渡る。

「――ふむ、惜しいな」
「……何がだ!?」
「その剣だ。残念ながら活かしきれていない」
「ああそうかよ!」

 挑発と判断し、更に打ち込んだ。

「っ……!」

 一旦退く柴城。

「だああああっ!!」

 攻める。
 息を継ぐ間も無く、剣を振るった。
 しかしその全てを柴城は冷静に受け止め、はじき返す。

「くそ……!」

 ――強い。
 今は限界だ。
 それを悟って俺はもう一度間合いを取った。

「はあ――はあ――」

 短い時間に息を整える。
 痺れかけていた身体が、徐々に回復していく。
 一方の柴城は、ゆっくりと崩れかけていた身体を元に戻した。

「……さすがにやるな。背後にエクセリアがいると、強い。おれも昔はそうだったからな。覚えがある」
「……どういう意味だ?」
「おれが――というか、シュレストの記憶だがな。おれの場合はレネスティアだったが」

 にやりと笑う柴城。

「だがその力は単純だ。想いの強さがそのまま力になる。おれたちの場合は、おかげさまで無敗だったがな」

 そう言いながら、柴城は剣を構えた。
 どこかで見たことのある、構え。

「さて――ならば、お前たちはどうか、見せてもらおう」

 次の瞬間、圧倒的な熱量が柴城を中心に沸き立つ。
 これは――!

「なに、心配はいらん。所詮は偽物の剣だ。それをカバーするだけの生命力も、アルティージェとは違って今のおれにはない」

 言葉とは裏腹に、その熱量はどんどん膨れ上がっていった。

 ――知っている。
 この圧倒的な力。
 かつて経験したことがある。

 ――思い出す。
 握り締めた剣の存在を感じながら、この剣を手渡してきたアルティージェの言葉を思い出していた。

 この剣の価値は、あいつも認めていた。
 そしてアルティージェが持っていた剣と、同種のもののはず。
 ならば。

「――エクセリア」

 その名を呼んだ。

「今度は二人で受ける。一年前のように、抜け駆けは無しだぜ」
「――――」

 少し、驚いたような雰囲気が返ってくる。
 だがすぐに、了とする意思が伝わってきた。
 それでいい。
 あとは踏ん張るのみだ。
 その上で、見極めてやる。

「来い……!」
「ならば」

 呼応し、溢れ出す閃光。

「〝三界打ち滅ぼす天魔が剣ウォルティカ・アクティオン〟――――!!」

 圧倒的な一撃。
 全てをなぎ払うかのように、柴城はその剣を一閃させた。


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