終ノ刻印

第114話 強敵と覚悟

終ノ刻印 第三章 帰する刻印編 第114話

     /真斗

「ぬん!」

 あの夜も見せた剛剣をもってザインは身に迫った咒法を打ち払う。

「ち……反則じゃねーのか!」

 剣の一振りで咒法を薙ぎ払うなんぞ、並の剣でできるものではない。
 第一あれは、茜の咒法も受け止めてたしな。
 魔剣ってところか。

「ぬるいわっ!」
「くそったれ!」

 俺は構わず銃を連射する。
 しかしことごとく見切られ、かすりもしない。
 だが足止め程度には役に立つ。

「はあっ!」

 そこへ茜が飛び込み、短剣を一閃させて飛び退く。
 鮮血が散ったが、ザインにしてみれば僅かな切り傷だ。
 茜を追撃しようとするザインを、俺は更に発砲して留める。

「ふん……そのような小火器で何ができる!!」

 くそ、このおっさんマジで強えぞ!
 銃がこの程度しか役に立ってねえとは――

「――なら、これはどうだ!」

 ザインの背後で響く茜の声。
 あいつの手には、いつだったか目にした、物々しい銃があった。
 俺の銃なんぞとは比較にならんほどでかく、威力もありそうな凶器。

「ぬ!」

 それを目にした途端、ザインが走り出した。

「逃すか!」

 構わず、茜はそいつをぶっ放す。
 連射され、銃から飛び出るのはただの鉛弾なんかじゃない。
 純粋な力の塊だ。

 咒法をあれで増幅してるのか……?
 いや――何か少し違う気がする。

「く……ぬ、おのれ………っ!」

 避けきれぬ、と悟ったのか、ザインはその場に踏み止まり、あろうことかその剣でもって、光の銃弾を打ち払っていく。

「ぐ!」

 しかしうち一発を防ぎきれず、肩への命中を許してしまう。
 肩の一部がごっそり吹き飛び、仰け反るザイン。

 しかし続く攻撃は無かった。
 茜は肩で大きく息をして、その場に膝をついてしまっている。
 ――あの銃の弾は、使用者自身ってわけか!

「そこまでか!」

 踏み止まったザインは、茜の様子を見てにやりと笑う。
 そのまま地を蹴って、茜へと迫る!

「させるかっ!」

 それを遮るように、俺はザインへと体当たりをかける。

「邪魔だ!」

 払うように振られた剣を、俺は銃で受け止め――持ち堪えたのは一瞬で、見事に切断されてしまう。

「…………っ!」

 それでもその一撃を引き付けることはできた。
 俺は切断された銃を握ったまま、ザインを殴りつける。

「ぬぅ……!」

 しかしザインは倒れず、更に剣を振るう。

「ち……!」

 避けるしかない。
 ザインは左肩をやられ、右手しか使えていなかったが、それでも充分に強敵だ。
 油断など一切できない。

「このっ!」

 素手になった俺には、近接戦闘での殴り合いしか残されていななかった。
 少しでも距離を開けられれば、剣を持つザインの方が有利になってしまう。
 ――そこへ、

「ぬ……っ!」

 ザインの腕に突き刺さる、短剣。
 茜が投げたものだ。
 俺は迷わずそれを掴み取って、引き抜く。

「ぬおおお!」

 その瞬間、ザインが振るった腕が俺に直撃し、たまらず吹き飛ばされてしまう。

「愚か者どもがっ……!!」

 ザインが剣ごと右手を掲げる。

「〝ジィオ・ラグルア〟っ!」

 雷撃の咒か!

「くそっ……!!」

 俺は咄嗟に地面を転がって逃げたが、完全に感電を避けることはできなかった。
 地面を伝わって、身体に届いてしまったのだ。
 相当威力は緩和されたものの、痺れが全身に走り、ふらつく。

「最後だ! 死ぬがいい!!」
「このっ……!」

 迫るザインへと、俺は手にしていた短剣を投げつける。

「足掻きを!」

 だがそんなものなど、あっさりと弾かれてしまった。
 だけどそれでいい。
 動きを止め、一瞬とはいえ的にさえなってくれれば。

「撃て!」

 俺の言葉に応えたのは、銃声だった。
 ――俺も、無闇に戦っていたわけではない。
 茜の回復を待っていたのだ。

「なに……!?」

 ザインの驚愕の声。
 放たれたのは、光の弾では無く、ただの銃弾のようだった。
 過たず、ザインに命中する。

「ぐぬ……!」

 しかし、それだけだった。

「お、おい……!?」

 さすがに俺も、茜を見た。
 あいつ、さっきの連射のし過ぎで、もう力尽きてしまったのか……!?
 見れば、茜までもが戸惑った様子になっている。

「な……イリスのやつ、何が特製なんだ!?」

 そして憤慨。

「少しも役に立たないじゃないか!」

 よく分からんけど、今の一発はイリスからもらった特製のものらしい。
 ところが不発――そんなところか。
 ――これはやばい。

「は……愚か者め! 運にも見放されたか!」

 ってかおっさん! いくら不発ったって、まともに銃弾食らっときながら、何でぴんぴんしてんだよ!

「くそ!」

 茜は歯を噛み締めながら、光の弾を撃ち放つ。

「効かぬわ!」

 あっさりと打ち払う、ザイン。
 片手のくせに……!

「茜、いったん引くぞ! このおっさん、タフすぎる!」
「だけど!」
「いいんだよ! 命あっての何とやら、だ!」

 やはりザインは強い。
 それに加えて、エクセリアが俺の傍にいないのだ。
 いなくても力を振るえるが、やはり近くにいるのといないのでは、限界や精度にかなりの差が出てしまう。

「逃がすと思うか! 神罰――――っ!!」

 ザインの渾身の一撃が、俺達の間近に迫る――まさにその時。

「ぬ、おおおおお!?」

 突如、ザインの悲鳴が響き渡った。

「な、何が……ぐ、ぬうおおおおお………!?」

 ザインは剣を落とし、その手で先ほど茜に撃ち込まれた銃創を掻き毟る。
 僅かな銃痕からは、もう出血すらない。
 だというのに、ザインはもがき苦しみだしたのだ。

「なんだ……?」

 唖然として、俺達はそれを見返す。

「まさか――」

 茜がぽつりと声を洩らした瞬間、それは起こった。

「があ!?」

 黒い炎。
 それがザインの腹部――銃弾を撃ち込まれた辺りから、沸き起こったのだ。
 この炎には、見覚えがある。

「茜、これって……!?」
「〝ゼル・ゼデスの魔炎〟……。私の〝魔剣〟と同種の禁咒。どうやらあの銃弾の中に、それと同質の咒を込めていたようだな」
「あのとんでもない咒法のことか。結局何なんだ、あれ?」
「唯一私が扱える禁咒だけど、詳しいことは知らない。〝魔炎〟を考案したのはずっと昔の魔女らしいけど、凛にも扱えて、それを見たイリスが自分なりにアレンジしたのが〝魔剣〟っていうことらしい。それをイリスに教えてもらっていたんだ」
「ふうん……。けどまともに打ち合っても勝てないから、撃ち込んでから発現させるっていう方法にしたんだな」
「どういう効果があるのかは、教えてくれなかった。しかもイリスのやつ、装填から発射までに一分かかるって言っていたけど、実際には撃ち込んでから咒法が発現するのに一分かかるんだ。びっくりさせてくれる」

 なるほど。
 それでザインに撃ち込んだ後、茜も戸惑っていたのか。

「イリスも間違えるんだな」
「そうだな」
「……それにしても」

 さすがのザインも、これで終わりだろう。
 内部からこの炎に焼かれては――

「ぬあああああっ!!」
「んなっ!?」

 漆黒の炎に全身を包まれたかと思えたザインだったが、それは一瞬のことだった。

「ぐ……ふぅ……!」

 炎は霧散し、腹を真っ黒に焦がしたザインが膝をつく。

「こいつ……耐えやがったのか……!?」
「――いや、咒法が完全に発動しなかったんだ。威力も弱い。恐らくあのサイズに圧縮するにあたって、どこかで何かを削らなければならなかったんだろう。もしくは、解凍に失敗していたか。でも、試作にしては充分だ」
「確かに……な」

 ザインはすでに満身創痍だ。
 この状態で生きていることすら不思議なのだ。

「く……お、の、れ……!」

 睨み付けてくるが、もはや立つことも適いはしない。

「……こいつ、ただの人間じゃねえぞ。それともアトラ・ハシースっていうのは、みんなこうなのか?」
「まさか」

 茜は首を横に振った。

「確かに強化はしている。私もだ。それには個人差はあるが、この状態で生きていられるなんて……」

 だとしても、この状態ならば長くはもちはしないだろう。

「真斗、下がっていろ」

 一歩進んで、茜が言う。

「とどめは私が刺す」
「茜」
「狙われたのは私だ。だから私が殺す。命のやり取りとは、そういうことだ」

 はっきりと、茜は言い切った。
 こういう世界にずっといたせいか、俺などよりもずっと覚悟している。
 俺は黙って、後ろに下がった。
 茜は何も言わず、銃をザインの頭へと向けた。


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