終ノ刻印

第91話 密談

終ノ刻印 第三章 帰する刻印編 第91話

     /真斗

「だからね。明日あたりがあぶないと思うの」
「うんうん。私もそう思う」

 昼下がり。
 柴城興信所内のテーブルに座り、何やら熱心に話す少女が二人。

 淡い金髪と濃い金髪で彩られた二人組の少女は、はっきりいって日本でお目にかかれるような人種の人間ではない。
 いや人間かどーかも怪しいけど。

 とにかく、あまり日本人っぽくないその二人は、さっきからずっとああやって、あれこれと作戦を練っているようだった。
 何というか、日常的な光景だったりする。
 俺は欠伸を交えつつ、それをぼんやりと眺めていた。

「でも……大丈夫かな? もういっちゃったってことは……」

 二人のうちの一人、 ゆ ら 由羅が少し心配そうに首を傾げた。
 その動作につられて、長くて淡い髪が揺れる。

「ん……大丈夫、だと思う。根拠は無いけれど、そう思うから」

 さほど自信があるようでもなかったが、それでもはっきりとイリスは答えていた。
 由羅と一緒に座る、もう一人の少女である。
 ふむ……。どうやら茜の奴、作戦を決行したらしい。

「ねえ真斗。何かあかね茜から聞いてない?」

 こっちを見て、由羅が尋ねてくる。

「特には」
「うー……。茜ったら、逃げなくてもいいのに」

 お前らが追っかけるから、逃げてるんだと思うけどな。
 ――なんていうつっこみは、もちろん心のうちに留めておく。
 まあ……逃げるから追っかけられる、っていう考え方もできないではないが、微妙なところだ。

「……お前らさ。何もそこまで執拗に、あいつの追っかけをしなくてもいいだろーに」
「だって放っておいたら、いなくなっちゃうもの」

 即答の由羅に、こくこくと頷くイリス。

「しょーがねえだろ? あいつがこっちに戻ってきたのは、お前を追っかけてなんだから。むしろ戻ってくれるっていうのは、あいつがお前のことを無害だって認めてくれたってことだろ。良かったじゃないか」
「あ、そういえばそうだったね。今じゃ立場が逆転しちゃったんだ」
「逆転って……そうかもしれんけど」
「真斗」

 ぽつりと、イリスが俺の名前を呼んでくる。

「なんだ?」
「貴方は協力してくれないの?」

 ……協力ねえ。
 紅い瞳を向けられて、俺は小さくうなってみせた。
 いつも考えこんでいることではあるが、俺自身、ちゃんとした答えが出せないでいるのが現状だったりする。

「いつも言ってるだろ? 俺は中立だって」

 正直なところ、俺も茜のやつが帰ってしまうのは、ちと寂しい気はする。
 久々に再会して、約一年。
 ずいぶん騒がしい日常になってしまったが、あいつがいないとどうにもしっくりこない。

 あいつはイリスにはめっぽう弱いけど、由羅には強い。あれやこれやと由羅に物事を教える時に茜がいると、非常に助かるのだ。
 由羅も文句を言いつつも、素直に従っている。
 ……まったくどっちが年上だか分かったもんじゃない。

「なんでよう。真斗だって茜には帰って欲しくないんでしょ?」

 ぶー、と頬を膨らませて、由羅はそう言う。

「ああ」
「ほらほら! なのにどうして手伝ってくれないの?」
「別に、帰ったら二度とこっちに来ないってわけじゃねえだろ? 一応、今ではあいつ、あっちに住んでるんだし。たまには帰って、ゆっくりするのもいいんじゃないか」
「そんな物分りのいいこと言わないでよ。私たちの気持ちはどうなるの?」
「いや、茜の気持ちは?」
「どっちの味方なのよ!」

 怒るなよ。
 ったく……。

「だから中立。お前らの気持ちもわかるけど、あいつの気持ちだってわかる。だからどっちも手伝わない。理解したか?」
「できるわけないじゃない!」

 握り拳で精一杯不満を表明する由羅。
 相変わらずの我侭ぶりだ。

「落ち着いて、由羅。大丈夫だから」

 イリスの声が冷水のように、由羅の頭を冷やしたようだった。

「う、うん……」
「茜、けっこう真斗のこと気にしてるみたいだから。うまく囮に使えば、充分役に立ってくれると思うよ?」

 ……おい。

「囮?」

 小首を傾げる由羅。

「うん。荒縄でぐるぐるって縛って、どこかにぶら下げておけば……」
「おいこら!」

 思わず声を上げてしまう。

「なんつう物騒なことを――」
「冗談だよ」

 こっちを見上げ、僅かに微笑んで、あっさりそう言うイリス。
 ……その表情が、はっきり言って怖い。
 これは協力しないとそうするぞっていう脅しなんだろうか……?
 くそ、俺は屈しないぞ!

「よ、良かった……」

 決意する俺の前で、なぜだかホッとしているのが由羅だったりする。
 そんな由羅を、面白そうに見つめるイリス。

 ふーむ……。
 俺は腕組みをして。
 さてどうしたもんかと考えた。


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