終ノ刻印

第78話 騒動の後②

終ノ刻印 第二章 最強の王編 第78話

 所長に声をかけられ、エクセリアは俺を見る。

「いいから座っとけって」

 促すと、エクセリアは俺のすぐ近くへと、腰を落ち着けた。
 所長にエクセリアのことは詳しく話してはいない。そんな暇は無かった。しかし昨夜の時点で顔は合わせている。
 詳しい説明は、茜のことを聞いてからだ。
 所長も気にする風も無く、話し始めた。

「ニュースでもやっているがな。市内の比較的大きなビルの上層部分が、見事に吹き飛んだ。相当大きな爆発があったらしい」
「ビル?」
「ああ。どうやら誰かがそこでどんぱちやらかしたらしい。派手にな。一昨日のに続いてこれだ。今市内は大騒ぎだよ」

 それは……そうだろう。
 山やらビルやらが吹っ飛ぶなんてこと、今の日本ではまず在り得ない。

「で、だ。こいつに茜君が巻き込まれたらしい」
「な」
「あの後茜君と連絡が取れなくてな。と思ったらあのビルの爆発だ。さすがにこれはと思って楓君――茜君のお姉さんに、連絡をとってみたんだ。小一時間ほどしてから連絡があって、怪我しているのを見つけて知り合いの所で保護しているとのことだった。あのビルのすぐ近くで倒れているのを見つけたらしい。怪我の程度はよくはないらしいが、それでも命は大丈夫だそうだ」

 それは……どういうことなのか。
 考える。考えるが、答えは一つしか浮かんでこない。

「茜が誰かにやられた……ってことか」

 じゃあ誰に。
 誰にやられたというのか……。

「状況からすれば、まあ限られてくるとは思うが」

 所長は明言はしない。
 しないが、誰かなどはっきりしている。

「由羅がやったって言うのか」

 由羅は消え、あいつに刺さっていた剣は、黎へと突き刺されていた。
 関連して考えるならば、黎も茜も、由羅にやられたと考えるのが、自然なのだ。

 歯噛みする。
 黎と由羅のことは、半ば仕方無いとさえ思っていた。
 しかし茜にまで手を出すとは……!

「違う」
「違うわ」

 俯いていた俺に、同時に二つの声が届いた。
 一つはエクセリア。
 もう一つは――黎。

「お前――動いて大丈夫なのか?」
「……おかげさまでね」

 足取りはまだおぼつかないようではあったが、顔に生気は感じられた。
 もしかすると、昨日の状態よりもいいくらいだ。エクセリアのおかげなのだろう。

「それよりも。昨日のことは、ユラの仕業ではないわ」
「……あの者は封印されていた。相手を考えるのならば、その封印を解いた者こそと考えるべきだろう」

 黎とエクセリアは、そう言う。

「けど、いったい誰が解いたって言うんだ……?」

 あれは、簡単にできる代物ではないはずだ。

「アルティージェ」
「……やはり、そうか」

 黎の挙げた名に、エクセリアは目を伏せた。
 アルティージェ。
 その名前は知っていた。

「ん? 誰だそれは」

 所長が首を傾げる。

「俺もよく知らねえよ。何ていうか……」

 とりあえず、物騒な奴だったと思う。
 見た目は少女だったが、まともじゃない。

「彼女はね」

 答えたのは黎。

「シュレストを継いだ、ディーネスカの二世。魔王なのよ」
「魔王って……あいつが?」

 いきなりのことに、俺は顔をしかめた。

「いつか説明したわよね。今に至るまで、悪魔と契約せし魔王は四人。その二人目がシュレスト・ディーネスカ。アルティージェはその末子よ。そして、唯一その王位を継いだ者でもある」
「王位を継いだって……。だから魔王だっていうのか?」
「ええ。継承咒というものがあるわ。これは、魔王が己の全てを他者に伝える手段。わたしの兄が千年禁咒として用いたものと、本質は同じ。そういう意味では、ユラもお兄様の跡を継いだことになるわ」
「ほう。黎君もあのお嬢さんも、実はとんでもない存在だったというわけだな」

 感心したように、所長が洩らす。
 ていうかあっさり納得してるけど、ちゃんと分かってるのだろうか所長は。

「でもアルティージェの時は、完璧だった。完全に継承が行われた。だから彼女は千年ドラゴンでもあり、魔王でもあるの。今となっては唯一の、ね」
「……そんな奴が、どうしてこんなとこにいるんだよ? ……というか、お前はそいつにやられたのか」

 黎は、頷く。

「わたしはきっと、彼女には嫌われているだろうとは思っていたけれど、その通りだったということね」
「どうして? むかし何かあったのか?」
「その存在は知っていたけれど、会ったのは初めてよ」
「じゃあなぜ?」

 ますます分からない。

「理由は……そうね。多分彼女は、不出来な姉という存在を嫌悪しているのよ」
「はあ?」
「アルティージェが王位を継ぐ際に、継承戦争というものがあったの。シュレストの子等で争った、骨肉のね。その時に唯一アルティージェに味方したのが、彼女の姉であるメルティアーナだったの。そのおかげで継承戦争に生き残ることができたと言っても過言ではないわ。だから、とても姉を敬愛していたはず。そんな経験から、妹にとって害悪にしかならないような姉を見ると、ひどく嫌悪してしまうのでしょうね」
「お前が由羅と喧嘩してるのが気に入らない――それでというわけか」

 黎は頷く。

「あれは、私をも嫌っている」

 ぽつりと、エクセリアが口を挟んだ。
 ……そういえばあのアルティージェって奴に、散々言われてたよな……エクセリア。

「かつて私は、アルティージェを殺そうとしたことがある」
「おいおい?」
「理由は、今回のものと全く同じだ」

 今回のものって………。
 つまり、認めるわけにはいかない――そういう相手ってことか。

「それで? まあし損なったんだろうけど」

 こくりと、エクセリアは頷いた。

「そりゃあ……恨まれるな」
「だから、そなたも由羅を恨みに思うと……そう思っていた」
「俺の場合はいいんだよ。そんな単純じゃねえから」
「…………」

 そう答えれば、エクセリアは沈黙してしまう。

「――それで? 結局あいつの目的は何なんだ? 由羅を……どうするつもりなんだよ?」
「真斗は、どうしたいの」

 黎に聞かれる。
 俺、か……。


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