終ノ刻印

第73話 敵か味方か

終ノ刻印 第二章 最強の王編 第73話

「自覚無いの? でも、異端のことは知っているんでしょ?」
「異端って……そりゃあな。だって俺、どっちかっていうと、そういう連中の敵対者みたいなもんだし」

 ぴくり、と。
 そいつはその言葉に反応した。
 今までの好意的な雰囲気が消え、一瞬にして敵意のようなものが滲み出してくる。

 その雰囲気に、俺は警戒した。
 たぶんこいつ、まともな人間じゃないぞ……。

「なに――どういうこと。もしかしてあなた、九曜の関係者だったりするの?」
「九曜?」

 それはよく知っている名前だ。

「ああ。一応な」

 答えた瞬間、睨まれた。
 敵意が殺気に近くなる。
 こいつ……?

「でもどういうこと? あなたからは紛れも無く、魔の影響を感じるわ。それも妖魔レベルなんかじゃない。充分魔族の域に達している。なのに、九曜家にいるというの?」
「ちょ……ちょっと待てよ。魔族とか何とかって言うけど、俺はれっきとした人間だぜ? 何を根拠に――」

 否定しかけて、ハッとなる。
 そういえば俺、もうまともな身体ではなくなっていたのだ。
 死んで、エクセリアに助けられて。
 俺の言葉に、そいつは少し殺気を引っ込めて、思案顔になる。

「自覚がないまま、使われているってこと……? でも、そんなこと……」
「――凛」

 悩むそいつの背後から、今度は知っている奴の声が聞こえた。
 凛と呼ばれた女は、露骨に嫌な顔になって振り返る。
 そこにいたのは茜だった。

「なによ。もう用事は済んだの?」
「とりあえずはな。……それより凛。なに因縁つけているんだ?」
「別にそんなことしてないわよ。同朋かもしれないと思って、声かけただけ」
「同朋って……」

 茜をこちらを見て、眉をひそめる。

「真斗。どうしてここにお前がいるんだ?」
「そりゃあ俺の学校だからな。授業受けに来てたって、問題無いだろ?」
「お前の?」

 寝耳に水といった感じになる茜。

「……そうか、とんだ偶然だな」
「偶然って……実はお前もここの大学の生徒だったとか?」
「ありえるか馬鹿者」

 容赦無く切って捨てられる。

「私をお前達年増と一緒にするな」
「って大して違わねえだろーが」
「ちょっと茜。今のはどういう意味? まさか私に喧嘩売ってるわけじゃないでしょうね……?」

 お前達、と言われたことが気に入らないらしく、凛は額に青筋なんかを浮かべたりする。

「ふん」

 しかし茜は取り合うことなく、そっぽを向いた。
 この二人は知り合いらしいが、あまり仲がいいとは言えなさそうだ。

「とにかくちょうどいい。真斗、話がある。凛、お前はもう帰れ」
「命令するんじゃないわよ。それにそっちの説明は無し?」

 そっちって、俺かい。

「後でしてやる。それより早く行った方がいいぞ。イリス、裄也
ゆきや
のところに行ったからな。置いていかれるぞ?」
「……っ」

 どうしてだか、不覚、という顔になる凛。

「い、言われるまでもないわよ」

 そして少々慌てたように、そいつはそそくさと教室から出ていってしまった。
 俺はそれをぽかんと見送る。

「……何だったんだ? あいつ」
「うるさい女、だ」

 素っ気無く、茜は答えた。

     ◇

 学食にて。

「偶然はともかく、どうしてお前がここにいるんだ? 事務所出てからここに来たのか?」

 昼食を食べながら聞くと、茜はそうだと頷いた。

「ここにくれば、だいたい会うことができるからな。事務所からも近いし、とりあえず確認に寄ったんだ」
「会うって……誰に」
「あの封印を何とかできそうな奴、だ」
「お前……!?」

 俺は驚いて、思わず立ち上がった。

「でき……るのか!?」

 いや、できる奴がいるのか――

「知らない。でも、私にとっての唯一の心当たりに相談してみた」
「……どうだったんだ?」
「とりあえずみてくれるらしい。今夜だ。一応お前にもそのことを伝えておこうと思って」
「そりゃあ……ありがたいけど……」

 由羅が何とかなるかもしれない。
 それは純粋に嬉しかった。
 しかし、とも思う。
 あいつが元に戻れば、また黎ともめることになるだろう。
 繰り返すんじゃないかっていう思いが、不安となってよぎる。
 そうなるのが分かっていて、それでも由羅を解き放つべきなのだろうか。

「俺は……」
「どうした。迷っているのか?」

 一瞬迷った。
 しかし振り払う。

「……いや」

 確かに一度、決着はついた。
 変わるかもしれない。
 それが単なる希望でしかなかったとしても、このままでいるよりは――いい。

「頼む。……ありがとう」
「……む」

 自然に口から出た礼に、茜は表情を固めて明後日の方向を向く。
 ……何やら照れているらしい。

「ところでさ」

 ちょっと話題を変えることにする。

「さっきのあいつは何なんだ? 何か得体の知れないやつだったと思うけど」
「ん……ああ、凛か」

 思い出したように、茜はこっちを見た。

「きっとお前のことを、同朋と勘違いでもしたんだろう。あいつの人間嫌いはひどいけど、その反面同胞には相当親身になるからな。埋もれている同胞を見つければ、ああやって接触をもって繋がりを持とうとしている。それがお互いのためにもなるしな」
「はあ」
「お前を勘違いしたのは、まあ無理もない。もう真斗はそういう存在に変質してしまっているし」
「……俺はまだ、自分は人間だって思ってるけどな」
「そう思うのは自由だし、悪いことではないだろう」

 そう言ってもらえると、少しは助かる気がする。

「まあとにかく」

 食事に戻りながら、茜は付け加えた。

「敵にはするな。そういう相手だ」


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