終ノ刻印

第50話 救いの手か、それとも

終ノ刻印 第二章 最強の王編 第50話

     /由羅

「ん……」

 誰かが私に触れている。
 それに気づいて、私は目を覚ました。
 視界に映ったのは、見覚えのある光景。自分の部屋だ。

「ようやくお目覚めね」

 横から、どこか嬉しそうな声が響いて――私はびっくりする。

「え、なに……!?」

 だってこの部屋に、自分以外の誰かがいたことなんて、ないから。
 驚く私とは対照的に、そこに座っていた少女は、とっても優雅な微笑をこしら拵えて、口を開いてきた。

「おはよう、由羅。勝手にあがらせてもらったけど……いいわよね?」
「あ、え、あ……え?」

 私はこの状況がちっとも理解できなくて、たぶん、笑われるくらいに動揺しまくっていた。

 えっと、確か昨日は……。
 まずはと記憶を探って――顔をしかめた。

「……私、何でこんなところに」
「それはね」

 説明してくれたのは、目の前の少女。

「わたしが助けてあげたから。あの場所から、ね」
「あなたが……?」

 そうだ。
 昨日の夜――わたしはジュリィと戦って。真斗と……会って。
 でもジュリィにやられてしまって……。

「あっ」

 私は思わず刻印のある手を見た。
 そこに、相変わらず刻印はされている。
 でも……痛く、ないのだ。それこそ全然……。

「それならば、わたしが封印しておいてあげたわ。綺麗でいいけれど、少々痛いでしょうから」

 事も無げに、言ってくれる。

「封印って……あなたが? 中和……じゃなくて?」
「中和はもうできなくなってしまったからね。仕方無いから、左手そのものを封印したの。だから注意してね? 今のあなたの左手は、いつものように力を振るえないから」
「あ、ありがとう……」

 何でそんなことをしてくれたのかと思うよりもまず先に、口から出たのはお礼の言葉だった。
 そんな様子の私を見て、少女は気を良くしたように、続けてくる。

「覚えている? あなたの左手は、更にもう一回、呪われてしまったの。そのせいで、うまく結界が張れないというわけね」
「呪われた? でも、そんなの……?」

 首をかしげたが、すぐに思い出した。

『汚れるがいいわ……!』

 確か――ジュリィがそう言っていた。
 あの女を貫いた時に、そんな風に。

「あの、時……」
「そう。あの女、自分の血を媒体にして、ちょっとした咒をかけたようね。解けないわけじゃないけど、まあ面倒くさい代物には違いないわ。あなたの様子から、そんなに時間をかけるわけにもいかなかったし。だから封印という形でとりあえず、ね?」

 ちゃんと理解できたわけじゃなかったけど、とにかく――自分は助けられたのだ。
 それは素直に嬉しかった。
 相手の意図なんかを考える前の、感情ではあったけど。

 でも……同時に身体が震え出す。
 昨夜のことを、鮮明に思い出せば思い出すほど。

「よくも……」

 自分でもぞっとするくらい、暗い声。
 私の記憶に残っているのは、自分がやられたことなんかよりも、ジュリィが……真斗を、殺そうとしたこと。
 それに……。

 嫌な光景まで思い出してしまい、私は頭を振った。
 長い髪が振られて少女にもぶつかったけど、彼女は気にする風も無く、こっちを見つめている。

「真斗……。――真斗は? 真斗は大丈夫だったの……?」

 思わずすがるように、私は尋ね聞いた。

「ああ、彼ね」

 ちゃんと知っているのか、少女は頷く。

「大丈夫でしょう……恐らくね」
「で、でも……だって……」

 そう言われても、安心はできなかった。
 私は真斗を助けるつもりだったけど、それができなかったのだ。

 その後のことを考えると、不安で不安でたまらない。
 そんな私の様子を見て、興味を覚えたように少女の瞳が妖しく光る。

「ふうん……。ずいぶんご執心ね?」
「え、な、なに?」
「だから、その真斗という人間」
「だって……真斗は……」

 真斗会ってからあんまり時間もたっていないけど、それでもその時間は不快ではなかった。むしろ楽しかったくらいだ。
 出会いは最悪だったけど、昨日真斗は……許してくれるって……。
 なのに……。

 ぐすり、と涙が込み上げてくる。
 同時に怒りも湧いてくる。
 ――と、そんな私の感情を包み込むように、少女は私を抱きしめていた。

「な、なに……?」

 私はびっくりして、あたふたするしかなく。
 けど、どうしてだか撥ね退けることはしなかった。

「あなた、いいわ……。わたしはね、そういう純粋な感情が好き。良くも悪くも……ね?」
「ね、ねえ……?」

 戸惑いながらも、私は今更のように――尋ねる。

「あなた、誰なの……?」
「わたし? わたしはね……」

 くすりと笑った後に。
 少女はその名を名乗った。

     /真斗

 柴城興信所に行くと、まるで待っていたかのように事務所で最遠寺が座っていた。
 ついでに上田さんの姿もある。

「思っていたより、早かったわね」

 そう言う最遠寺には、ぱっと見た目、昨夜負ったはずの重傷の様子などは見当たらなかった。

「待ってた……ってことか。ちょうどいい。俺らもお前に話があったんだ」
「そうね」

 最遠寺も頷く。

「場所を変えましょう。ここじゃあ……ね?」
「そうだな」

 事務所には、所長はもちろん東堂さんの姿もある。
 明らかに、こちらの方を注視していた。

「ってなわけで所長、ちょっと出てくるな」
「なんだ。内緒話か?」

 所長の言葉に肩をすくめ、ああと頷く。

「そんなとこだよ」

 適当に答えた後、俺と茜、そして最遠寺は外へと出た。


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