終ノ刻印

第49話 目が覚めれば

終ノ刻印 第二章 最強の王編 第49話

     /真斗

 目が覚めると、気分は最悪だった。
 身体はだるいし頭は痛いし、どーにもしんどくて敵わない。

 二日酔いの状態で、全力疾走でマラソンでもしたらこんな状態だろうか。
 とにかく気分悪い……。

「おええ……」
「何がおええだ」

 不意に耳に届いたのは、まるで冷水のような、冷たい一言だった。
 そんな声に、俺はもぞもぞと反応する。

「むー……?」
「とっとと起きろ。起きれないなら、水でもかけてやろうか?」

 非情な言葉に、俺は条件反射でむ~と抗議の声を上げる。
 そんな様子に、相手は呆れたようだった。

「……実に情けない姿だな。まあ、たまにはそんなお前を見ておくのもいいけれど」

 また、冷たい言葉。

 っくそ……。

 いったいどこのどいつだ……?

 …………。

 ――――あ。

「――あれからどうなった!?」

 俺は思わず飛び起きて、悶絶した。
 そんな姿を見てか、近くで茜のやつの溜息が聞こえてくる。

「急に動くからだ。多少は戻っただろうが、あれだけ生気を吸われたんだからな」
「あん……? 吸われたって……」

 何のことだと首を捻った瞬間、脳裏に蘇ったのはあの光景だった。

「もしかして、それってあれか……?」

 あの時のことを思い出す。
 突然、最遠寺のやつに――その、ああされて、その後から急に身体の調子がおかしくなったのだ。
 つまりあの時に………。

「ふん。すぐに払いのけていれば良かったんだ。それをあんなにも……」

 なぜだか不機嫌な声になって、茜はそっぽを向く。

「ったくあいつ、むちゃくちゃしてくれたよな……。で、茜。結局あの後どうなったんだ?」

 改めて、俺は聞き直した。
 最遠寺と由羅。
 あいつら二人が血塗れになって、お互いにぶっ倒れてたところまでは、覚えている。
 その後に、確か誰かが現れて……。

「黎ならば、上田が事務所に引き取っていった」
「……やっぱり上田さんか」

 どういう理由かは知らないが、あの時最遠寺を庇い、由羅に短剣をぶっ刺したのは、確かに上田さんだった。

「じゃああいつは……?」

 俺が聞いたのは由羅のこと。

「さあ知らない」

 素っ気無く、茜は言う。

「お前も見ていただろう? どこかの誰かに連れていかれた」

 どこかの誰かって……。
 そんな答えに、つい不満が顔に出てしまう。
 それを見て、茜はふんと鼻をならした。

「追いかけてでも欲しかったのか? そういうことは自分でするんだったな」
「…………」

 確かに……茜の言う通りか。
 自分にできなかったことを誰かに望むなんて、虫が良すぎるだろう。

「……すまない。お前、俺をここまで運んでくれたんだろ? それだけで充分だよ」
「一生感謝しろ」
「努力してみるさ」

 偉そうな茜の発言にも、俺は素直に頷いておく。

「――それで、これからどうする気だ?」

 どうする、か……。

「最遠寺のやつ、事務所にいるんだろ? 由羅のやつが行方不明なら、まずは最遠寺のとこに行って、あいつを抑えておいた方がいい」

 そんな俺の発言に、茜はじっと視線を送ってくる。

「な、なんだよ?」
「お前、まだあの異端に構う気なのか?」

 構うって。
 俺は溜息をついて、逆に聞いた。

「お前はどう思った? 昨日のあいつ――あいつら見て」
「そんなことを聞いてどうする?」
「いいから言えって」

 純粋に、茜の印象に興味があった。
 あいつらのことを、どう思ったのか……。

「個人的な感想を言わせてもらえば、黎は私怨で動いているな」

 まずそのことを、茜は指摘した。

「同感だな」

 俺は頷く。
 それは、由羅とのやりとりを見ていれば分かることだ。
 あいつに対する最遠寺の、異常な感情については。

 何せあの時、俺まで最遠寺に剣を向けられるわ、生気は吸われるわ……とにかく目的のためにはお構い無しという感じだった。

「よくはわからないが、たぶんお前は黎に利用されていたんだろう」

 ぽつりと、茜が言う。

「違うな。利用したかったんだろ」

 俺は訂正した。

「けど利用しそこなった……たぶんな」

 あいつは俺が由羅のやつにやられた状況を利用して、自分の味方にするつもりだったんだろう。

 だけど俺は、由羅を庇った……。
 もしかするとあの時俺に剣を向けたのは、半ば本気だったのかもしれない。

「そのあたりについては、私も黎に聞く必要がある」
「素直に答えてくれればいいけどな」

 あまり期待できそうもないけどな。

「で、由羅のことは?」

 続けて聞いてみる。

「さあ。私はまだ、あの異端のことをよく知らない。戦ったことしかないからな。ただ……」

 そこでいったん区切り、少し考えてから茜は俺を見て言った。

「あの様子では、お前のことを気にかけているのは間違いないようだ。黎の邪魔がなければ、お前の言葉を聞いていたかもしれない」
「俺も、あいつなら大丈夫だって思うんだけどなあ……」
「無理だろう」

 あっさりと俺の希望を、茜は一蹴してくれる。

「なんでだよ」
「昨夜のことを見ていれば明白だ。あれはやはり異端――しかもまともな力の持ち主じゃない。もしその力が暴走すれば、被害は決して小さくはないだろう」
「んなことはわかってるよ。けどそれはあいつ次第で――」
「あいつ次第? それは違う。黎次第、だ」

 茜が何を言わんとしているのか。
 何となく、納得する。

「つまり由羅がどう思おうと、最遠寺が仕掛ければ結局結果は一緒……ってか?」
「違うのか?」

 そう反問されると、否定できなかった。
 由羅に無抵抗でいろとは言えないし、本人もそのつもりはないだろう。

「……じゃあ、最遠寺のやつを説得したら、丸く収まると思うか?」
「無理かもしれないと言っていたのは、真斗だろう」

 確かに昨夜はそういう理由で、まず茜の元に行ったのだ。

「それに……私はまだ、お前に説得された覚えはないぞ」

 ……う。
 じろりと睨んで釘をさされ、俺は困ったように頭をかいた。

 最遠寺を何とかする前に、こいつをしっかり説得しておかないと、この先うまくいくはずもない、か……。

「ともあれ、最遠寺に会っとこう。このまま消えられても困るしな」

 そういやあいつもかなり由羅にやられていたはずだけど、大丈夫だったんだろうか。

「そうだな」

 俺の提案に、茜も小さく頷いてくれた。


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