終ノ刻印

第48話 記憶

終ノ刻印 第二章 最強の王編 第48話

     /黎

 …………。

「おいで。いいのよ? 遠慮しなくても」

 わたしの言葉に、妹はほんのしばらくの間だけ悩んでいたようだったけど、やがて意を決したように飛び込んできた。

 長くて淡い金の髪が、ふわりと軽く舞う。
 妹のものでありながら、つい自慢に思ってしまう髪。

「きもちいい……!」

 わたしの腕の中で、本当に心地よさそうに、ユラはじゃれついてくる。
 まだ小さくて、つい最近わたしの妹になった子。

 この子のことを、わたしはとても気に入っていた。
 多分、お兄様にだって負けないくらいに。

 すでにわたしには、二人妹がいる。
 けれどその二人はわたしにとっては敬愛すべき相手であって、この新しい妹とは違う感情を持たせてくれる。

 一応姉として振舞ってはいるが、本当ならば頭を下げるべき方なのだ。
 ともあれそんな二人の妹とは違って、この子はわたしにとって、とても新鮮だった。

「……どう? だいぶ慣れた?」
「……うんっ」

 わたしの問いに、ユラは嬉しそうに答える。

「とってもすごいね。私、こんな生活したことないから……。まるで夢みたい!」

 心から本心だと分かる言葉。
 わたしまで嬉しくなる。

「でも、ユラ?」
「なあに?」

 まだまだあどけない様子で、ユラは目をぱちくりとさせた。

「わたしやお兄様だけじゃなくて、あの二人とも仲良くなって欲しいわ」
「あ……うん。でも、その……」

 途端に歯切れが悪くなる。
 分かりやすい反応だ。

「苦手なの?」
「う、うん……ううん。そんなこと、無いと思う、けど……」

 困ったように、ユラは言葉を濁した。
 まあ、分からないでもない。

「レネスティアとは、よく遊んでいるでしょう?」
「うん……。いっぱいかまってくれて、うれしいんだけど……」

 わたしは微笑をこぼす。
 わたしのもう一人の妹は、とてもマイペースだ。

 とても純粋で、積極的すぎるくらいに行動的で、相手をする者は誰であろうと始終押されっぱなしになる。
 もちろん、わたしだって例外ではないけど。

 そしてそれはお兄様も同様で、あの子にはいつも手を焼いていた。
 見た目はユラよりも少し大きいくらいで、まだまだ幼いというのに常に優雅で妖しい淑やかさを持っているが、実は一番の御転婆だ。

 ユラもあの子に気に入られたようで、最近ではよく遊んでいるが、いつも引っ張りまわされてへとへとになっているユラの姿が、また微笑ましくもあった。

「じゃあエクセリアは?」
「えっと……」

 エクセリア――レネスティアの、双子の姉。
 容姿はとても似ているが、性格はまるで違う。

「まだ、そんなに話したことがないのね?」
「……うん」

 素直にユラは頷いた。
 まあこれも無理はない。
 あまり口を開かないあの子は、あまり表情も見せなくて、ユラにしてみれば自分が好かれていないと勘違いしているのかもしれない。

 確かに少々とっつきにくい子だけれど、わたしの見るところでは、レネスティアよりも優しいはずだ。

「大丈夫よ。あの子もあなたのことを好いているわ……。だって、お兄様がつれてきた子ですもの。みんな、家族が増えて喜んでいるのだから、ね?」
「うん……! 私、レネスティアとももっといっぱい遊ぶし、エクセリアともいっぱいお話してみるね!」

 根が明るいせいもあって、ユラはすぐに元気な顔になってそう宣言する。

「そうね。いい子ね……」

 わたしはユラを抱きしめる。
 幸せがまた一つ、増えた気がしていた……。

 …………。

     ◇

「――お目覚めですか?」

 誰かの声がした。
 目をあければ、良く知った青年の顔がある。

「ええ……エルオード」

 わたしは起き上がろうとしたが、うまくいかなかった。

「…………駄目ね。動かないわ」
「仕方ないでしょう。あれだけの深手を負われては」

 彼の言う通りだ。
 あれだけの傷をもらえば、ただではすまない。
 例えその傷が、すでに無くなっていようとも。

「とりあえず、傷の回復の方を優先させましたからね。立てるほどの生気は残っていないでしょう」
「……そのようね」

 痛みも、もう無い。
 けれどこの脱力感は、この身体が限界に近いことを訴えている。

「飢餓で動けないなんてね……。無様だわ」

 自分自身のことであるのに、わたしは本気でそう思った。
 本当に……無様な姿。

「ならばすぐにも補給をして下さい。夜のうちに二人ばかり、手に入れておきましたので。――彼らが来ないうちに」
「…………ふふ」

 最後の一言は彼の気遣いだろうけど、皮肉にも聞こえて。
 わたしは自嘲の笑みを浮かべてしまう。

 彼ら……か。
 桐生くんはきっと……わたしのことを怒るだろう。
 ユラへの挑発のためだったとはいえ、彼のことを殺そうとしたのだ。

 じゃあ……もしかしたらもう、わたしのもとになんか、来ないのではないだろうか。
 彼が、ユラの方を選んだのならば……。

「ジュリィ?」
「いえ……」

 振り払うように、かぶりを振る。

「何でもないわ。ありがとう」


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