終ノ刻印

第45話 千年を生きるすべ

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第45話

     /由羅

「…………っ」

 やられた傷が痛む。
 あの刻印ほどの痛みは無いとはいえ、戦っている最中にこれだけの傷の痛みは堪えてしまう。

 かなりの時間、ジュリィと戦って。
 相手もさすがに無傷とはいかなかったけど、私の方はもっと深刻だった。
 この身体はほとんどの干渉に対して不死だけど、無敵というわけではないから。傷つけられもするし、痛みもする。

 何度か狙撃を受けて、身体はかなりの損傷を受けていた。
 何とかそれから逃れようとしたけど、ジュリィに追われているせいもあって、簡単にはいかず。

 でもその厄介だった狙撃が、突然無くなってしまった。
 理由は分からないけど、多少の救いにはなった。

 その間に、できる限りの反撃をして。
 あの女にも、それなりの傷を負わすことができた。
 それ以上に私の受けた傷は深かったけど、私ならまだまだいける。
 人間だったらすでに致命傷。でも私は人間じゃない。

 それに何よりもう二度と、あの女にだけは負けたく無かった。
 凍てつく冷気が私の周囲に凝る。
 私は咒法の発動を感じ取って、その場から抜け出す――その刹那、地面を突き破るかのようにして現れる、氷の柱。

 その柱に一瞬ジュリィの姿が消え、現れる。
 氷の柱を打ち砕いて。
 避けられない……っ!

 私は無茶を承知で、素手でそれを受けた。左手を振り下ろされる剣の腹に当てて、何とか弾く。
 思いのほかあっさりと弾くことができた――が、それを見たジュリィの顔には、笑みが浮かぶ。

 焦燥を覚えはしたものの、気にしている暇は無かった。
 ジュリィは攻勢の手を緩めない。
 私にはできない咒法を併用して、息をつかずに攻撃を繰り出してくる。

「……っの!」

 私も全身を使って反撃するが、あっさりとかわされ、時には受けられてしまう。

「そんなもの!」

 私は怒りにまかせて、ジュリィの持つ氷の剣を殴りつけた。

「……っ!」

 その衝撃に、さすがにジュリィも後ろへ下がる。
 へし折るつもりで殴った一撃。
 物凄い音がしたけど、それだけだった。

 さすがに簡単には砕けてはくれない。
 でも絶対に壊してみせる。
 単純な力ならば、千年ドラゴンの持つものは最強だと、昔クリーンセスが言っていた。……その身で体験して。

 私にはそんな暴力しかないけど、そのくらいならば――扱ってみせる。
 でも、私のそんな意図はあっさりと見抜かれていて。

 二度目に殴りつけた時に、その剣はあっさりと宙を舞った。
 衝撃で吹き飛ばされたようにも見えたけど、わざとだったのだ。

「単純すぎるわ」

 そんな、ジュリィの声。
 丸腰になったというのに、まったく動じていない顔。

 私は精一杯の力を込めて拳を振るったせいで、大きな隙ができてしまっていて――その瞬間を逃さずに、ジュリィは私の首へと手を伸ばしていた。

「なに……を――!?」

 お互いが密着してしまえば、力のある私の方が有利だ。
 けれど、私の首を掴んだ手を振り払おうとして、異変に気づく。
 力が入らない……!?

「私がこの二千年以上、どうやって生きていたと思う?」

 私を掴んだまま、見つめてジュリィが尋ねてくる。

「そんな……こと……っ」

 駄目だ――理由は分からないけど、力が入らない。
 この脱力感は、なに……?

「お兄様が生きていた時ならば、わたしはあの人にもっとも近しい者だったということで、その影響を一身に受けて長い時を生きることもできたわ。でもお兄様が亡くなってからは、わたしだってずっとは生きていられはしない。けれど、そんなのは許せなかった」

 憎悪を込めた、言葉。

「わたしは願ったわ……せめてあなたが目覚める時まで生きられることを。あの方はわたしと契約を結んでくれなかったけれど、代わりに別の方法をくれたわ。こうやって、誰かから命を奪うことで、己を保つ方法を」
「…………!」

 じゃあ今、私はこの女に命を――生気を吸われているってこと――!

「ふふ……さすがね。ただの人間だったならば、すぐにも死んでしまうのに、あなたときたら……」

 恍惚とした表情を浮かべて、ジュリィはそんな風に言う。
 認めたくはないけど、私はこんな身体になって――化け物と言われても仕方が無いのかもしれない。

 でもこの女だって、そんなことをして今まで生きてきたというのなら――私と変わらない、化け物だ。
 私は何か言ってやりたかったけど、脱力感のせいで言葉すら出すことはできず。

「さあ……このままあなたが干乾びていく様を見ていてあげるわ。どうせ戻ってしまうのでしょうけど、そんな無様な姿を見ておくのも悪くないものね……?」
「く……あ……っ」

 ――辛い。
 今まで色んな苦痛を与えられてきたけど、こんなのは初めてだ。
 まるで精神的な強姦……!

 でも、それは長くは続かなかった。
 不意に鮮血が舞って、ジュリィの手が首から離れたからだ。
 私は咳き込みながら、大きく後ろに跳ぶ。
 ……追撃は無くて。

「え――」

 ジュリィが見る視線の先を私も追って、自分の眼を疑ってしまう。
 硝煙を上げる銃口を向けて、こちらを見ていたのは。

「悪いな。邪魔するぜ」
「――真斗!?」


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