終ノ刻印

第35話 襲撃

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第35話

     /茜

 銃口から飛び出したのは、ただの銃弾などではなく。
 圧倒的な、力の塊。

「…………!?」

 その威力を前に、そいつは驚愕の表情をみせた。
 だけど驚きたいのはこっちの方だ。
 あの至近距離から狙って撃ったというのに、その異端種は避けてみせたのだ。ただ頬をかすめただけ。
 みるみるうちに、少女の顔が怒りに満ちていく。

「私を、殺すって……いうの?」
「そのつもりで私はここにいる」

 私はもう一度銃口を向ける。

「――――っ」

 引き金を引くと同時に、少女の姿は宙に踊っていた。
 何のためらいもなく、屋上より飛び降りる。
 私もそれを、追いかけた。

     ◇

 ゴルディオス。
 私の持つ武器に付与された力の名前。
 もちろん普通の銃とは根本的に作りが違う。そんなものでは異端を狩ることなどできはしない。
 これはここ二年の間に私が作った、私専用の武器だ。

 もっとも一人で……というと、そうではなくて、その大部分を手伝ってくれた者がいる。
 ゴルディオスは原理崩壊式咒といって、持つ者の存在力が相手より高ければ、その組織を根本的に破壊するという代物。

 死神と呼ばれた存在によって考案され、初めて武器として実用化したのが千年以上前のこと。死神が自ら作ったという死神の鎌をオリジナルに、それを模して今までの間に何本かその仕組みをコピーした武器が作られている。

 ただし、私のものはコピーではない。
 私は人間である以上、異端種に比べてその存在力は大きくない。無論、咒によって日常的に強化してはいるが、これにも限度がある。

 そんな私がこの武器を持っていても、自分以上の存在力を持つ相手には通じないのだ。原理崩壊式咒ゴルディオスとは強者が弱者に対して絶対的な効力を発揮するためのもので、その力のわりに、ほとんど量産されることが無かったのはそのためである。
 私が欲しいのは、自分よりも強い相手にでも充分通じるもの。第一、武器とは得てしてそういうもののはずだ。

 ……これを作った死神というのは、自分より強い存在など最終的には存在しなかったわけで、そういう点では最も自分に相応しいものを作り上げたといえるだろう。
 私はこの武器に、例え私が使用しても死神が手にした時と同じくらいの効力を求めた。

 もちろん原理崩壊式咒ゴルディオスなんていう、禁咒の域のものなど、私にはほとんど理解できない領域の知識だ。いや私だけではなく、理解できた者などいはしない。だから応用することができず、ただコピーするしかできなかったのだから。

 ではそんな代物を、どうやって私にでも充分意味のある武器に変えることができるか。
 一番手っ取り早い話、オリジナルを作った者に、新たに作ってもらうことである。私にも合うようなものを。
 幸か不幸か、私はそれと知り合いだった。ちょっと頼んでみたら、あっさりと作ってくれたというわけだ。もっともベースは私の用意したこの銃なので、共同開発、みたいな感じではある。

 ともあれこの武器ならば、私の存在力で、死神が手にした時と同じくらいの効力を発揮できる。しかも弾など込める必要は無く、気合一発で引き金を引けばいい。
 もっともあまり使いすぎると、けっこうな負担が私にかかる武器ではあるが、今目の前を走っている相手にも充分通じる武器だ。

     ◇

 疾走する相手へと向けて、銃を撃ち放つ。
 威力は私の加減で調節できて、大砲のような破壊も可能だ。
 撃ちこまれた銃弾は、少女が着地に使おうとしたビルの屋上を、粉々に吹き飛ばす。

 騒ぎは望むところではなかったが、異端を仕留めることこそが、最優先のこと。それにたぶん、あれに出し惜しみをしていたら、こちらがやられる。一気に攻めて、相手が反撃に転じる前に、決定的な打撃を与えてしまいたい。

 足場を失って、少女はぐらりとバランスを崩した。
 そのまま落下するかに見えたが、片手を突起物に引っ掛けると、片腕一本の力だけで再び夜空へと舞い上がる。

 その際にこちらに向けた瞳には、明らかな怒りの色。
 これだけ距離が離れているというのに、感じる殺意。
 背中に感じた悪寒を私は無視して。
 その少女との距離を詰めるために、更に発砲した。

     /真斗

 すでに三時は回っている。
 約束の時間を過ぎても、あいつはやってこなかった。

「遅いな」

 俺のつぶやきにも、返事は無かった。
 あれ以来、最遠寺は黙して口を開いてはいない。
 小さく、溜息をつく俺。
 ……まったく何だというのだろう。

 ――早く、思い出して。

 やけに耳に残る、最遠寺の言った一言。
 いったい何を思い出せというのだろうか。
 ちらりと最遠寺を見てみるが、あいつはどこかを眺めていて、微動だにしていない。

 ……まあ、今はいいか。
 それよりも茜のこと。
 あいつが自分で指定した時間を破るとは思えない。
 最近はどうか知らないが、けっこう時間にはうるさかった奴のはずだ。

 それがまだ、姿を現さない。
 まだ二十分くらいしかたっていないとはいえ、不安になる。
 何か、あったのか。

 がらり、と音がして、事務所のドアが開く。
 ようやく来たかと思って振り向くと、入ってきたのは茜ではなかった。

「……上田さん?」

 そう、入ってきたのは上田さんだ。

「やあこんばんは」

 相変わらずの愛想の良さで、上田さんはそう挨拶してくる。

「こんばんはって……どうかしたのか?」
「まあちょっとした野暮用ができまして」

 そう言うと、無言で見返していた最遠寺へと近づき、何やら耳打ちする。
 ……何なんだ、一体?
 俺が疑問に思っていると、軽く頷いてみせた最遠寺が、その場に立ち上がる。

「行きましょう、桐生くん」

 いきなりそんなことを言う。

「行くってどこに?」
「九曜さんのところよ」
「茜?」

 俺は眉をひそめたが、最遠寺はかまわず事務所の入り口へと向かった。
 そしてつぶやく。

「少し、急いだ方がいいかもね」


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