終ノ刻印

第31話 幼馴染との再会③

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第31話

「共同?」

 最遠寺の言葉に、茜が見返す。

「そう。わたしたちは、今回の件を見過ごすわけにはいかないわ。そこであなたと協力し合うことができるのなら、こちらとしても好都合。アトラ・ハシースのあなたの戦力は頼りになるし、あなたとしてもこちらの情報は必要なはず。昨日も、情報を得るために柴城さんに会っていたようだから」

 なるほどな。
 確かにお互い、協力した方が好都合か。
 ……って、ちょっと待て。

「結局俺はどーなるんだ?」
「お前の友達も心配してるからな。黎君のサポートにいて欲しかったが、代わりに茜君がいてくれればまあ問題無い。聞くところによると、茜君もこの町のことは知っていて土地鑑はあるようだから」
「わたしは手伝って欲しいけれど」
「私は反対だ」

 むう……。
 まったく困ったもんだ。

「……俺としては、乗りかかった船だ。できるなら最後までやりたい」

 俺の言葉に、最遠寺がわずかに笑みを見せる。
 一方茜の方は、不機嫌そうな顔になる。

「……私は心配して言ってるんだぞ?」
「わかってるよ。感謝してる。ずっと会ってなかったのに、昨日ちょっと見かけただけで、俺のことを心配して来てくれたんだろ」

 感謝しないわけがない。

「わかってない。わかってるならやめろ」
「悪いけどな」

 そう言う俺を見て、茜はため息一つ。

「馬鹿には何を言っても無駄だな。……とりえず、足手まといにはなるんじゃないぞ」

 む。
 くそう……反論したいが、事実なのだ。
 俺と茜では、茜の方が断然強いはず。
 分かってはいるが……むかつくぞ、くそう。

「ふむ。そういうことなら今後はよろしく頼むよ」

 妥協案がまとまったことに、少しホッとしたように所長は言った。

「仕方無いから……。そちらにも仕事はあると思うし。それに私は九曜の家を出た身だから、あまり九曜のことは気にしなくていい」
「いや、そうもいかないさ。ここには君のお姉さんが住んでいるだろう?」

 その言葉に、ぴくり、と表情が固まる茜。

「お姉さん?」

 最遠寺も首を傾げて茜を見る。

「実はおれもこの二年近くの間に、たまに世話になっていてね。その妹さんを邪険にしたら、やっぱりお姉さんに悪いだろう」
「あ、その、ええと……」

 茜にしては珍しいくらい、動揺した様子になる。
 ほほう。
 どうやらこいつ、まだ姉のことが苦手なようである。
 確か茜が家を飛び出したのも、その辺りが理由じゃなかったっけか。

「あの……もしかして私のこと、姉さまに……?」
「いや。別に言ってなんかいないが」
「だったら……その、言わないでおいて欲しい。私が今、この町にいるってことは……。できればずっと……」
「それは構わないが……。今喧嘩でも?」

 少し怪訝そうな顔になる所長。
 それはそうだろう。こいつの姉といえば、九曜家の長女ということもあって相当な実力の持ち主だ。この茜がコンプレックスを覚えて家出してしまうほどの、である。妹が頼めば、普通だったら協力してくれる、得難い人材だというのに。
 とはいえ茜の姉がこの町に住んでるなんてことは、俺も初耳だけど。

「――こいつは万年姉妹喧嘩してるよ。たぶん、ずっと連敗中だろうけど」
「真斗っ!!」

 ぐああ、と烈火のごとく怒る茜。
 ふん、さっき俺にケチつけてくれたお礼だ。素直に受け取っておけ。

「殺すぞ!?」

 ……ちょっと効き過ぎたかもしれない。
 俺の胸倉を掴んで怒涛の勢いでシェイクする茜をぶれる視界で見ながら、俺はちと後悔する。
 やはりこいつにとってのタブーは姉のことか。
 ったく今も昔も代わってねーなあ……。

 俺が茜から開放されたのは、それから数分後のことだったとは思うが、よく覚えてはいない。俺は目を回しておええと、気分の悪さに床で這いつくばっていた。

「……っの、暴力女!」
「ふん! 死んでろ」

 くそ……こいつ女のクセして、めっぽう腕力あるし……。修練のせいか、常に咒を自分にかけて強化しているのかは知らないが。

「ふむ……実は意外と弱かったんだな、お前」

 床を覗き込むようにして、何とも不愉快な台詞を送ってくる所長。

「うっせえ……こんな規格外と一緒にすんな」

 俺はよろよろとしながらも、何とか椅子へと座り込む。
 そこで真横また一発蹴りが入り、ふらふらの俺は為すすべ無くもう一度床に沈んだ。

「てめえ、何しやがる……!?」
「……あまり下らないことを言っていると、本当に殺すぞ……?」

 ――お。
 何か今感じたぞ。
 こええなあ……たぶんこれが、『殺気』ってやつだ。

「ふふ、二人とも仲が良いのね」

 面白そうに、最遠寺が洩らす。

「誰がこんな暴力女!」
「黎、不愉快なことは言って欲しくない」

 二人そろって否定の言葉。
 俺達は顔を見合わせ、ふんっとそっぽを向いた。

「……それで、結局俺たちはどういう形でお前に協力すればいい? ――ああ、真面目な話なんだから、いちいち睨み通すな鬱陶しい」

 そう言って手を振ると、茜はぷい、とまたそっぽを向く。
 この少し拗ねたような感じは、まあ歳相応だな。

「……お前たちは、今までどうやっていたんだ?」

 最遠寺と俺に向かって、茜が尋ねてくる。

「大したことはまだだ。とりあえず、俺の仕事は現場を押さえて相手を確認することまでだからな。事件の起こりそうな深夜に、町を見回っている」
「わたしは来たばかりだから、まだ何もしていないわ。でも今日から、桐生くんと同じように見回るつもりよ」

 今までの現場付近を中心に見回るといっても、範囲は決して狭くない。効率が悪いが、しかしそれ以外に有効な方法があるわけでもないのだ。
 話を聞いて、茜は小さく頷いた。

「そうか。確かに遭遇する可能性は決して高くないが、地道に捜していくことも必要だろう。わかった。私もそれに加わる。相互に連絡を取り合いながらすれば、一人、二人でするよりも、可能性は高まるはずだ」
「よし。じゃあ時間を決めて、夜になったら集合して、それから始めよう。最遠寺もそれでいいか?」
「ええ。問題ないわ」

 こくりと、最遠寺は頷く。
 これでとりあえずはまとまったというところか。
 茜が突然現れたのには驚いたけど、協力者としてなら心強い。仕事も俺一人がやるよりも、ずっと効率よくできるだろう。

 話が一段落しところで、あることを茜に聞くつもりだった。
 実を言うと、茜が現れたことは俺達の仕事の協力者になること以上に、嬉しいことでもあったのだ。
 天佑といえば、まあそんな感じだ。
 つまりあいつ――由羅のこと。

「茜、今時間あるか?」
「……? 何かあるのか?」

 訝しげに、茜はこっちを見る。

「ちょっと相談したい――ていうか、聞きたいことがあってさ」
「なんだ?」

 真っ直ぐに聞いてくる茜だったが、俺は所長の方を見た。

「悪いけど……いや、いいや。俺らの方が動いとく」
「内緒話?」
「そんなところだ」

 最遠寺に聞かれ、俺は適当に頷くと、茜を接客用のテーブルへと移動させる。
 一応所長は知っているのだが、上田さんもいることだし、何より最遠寺の前で、由羅の話はしたくなかった。どうもあの二人の仲は最悪だからな。


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第32話 内緒話終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第32話      ◇ 「……何なんだ?」  席を移動した後、茜はさすがに戸...

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終ノ刻印【Thousand Testament Ⅹ】 『終ノ刻印』とはたれたれをによる小説作品。  『Thousand Testament』シリーズの一つ。エピソードⅩに当たる。 ...