終ノ刻印

第30話 幼馴染との再会②

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第30話

 一番の疑問をぶつけてみる。

「昨日、お前を見たんだ」
「昨日? ……昨日っていつ頃」
「夜だ。深夜。そっちの女と一緒にいるのをな」

 ……そっちの女って。

「最遠寺と……? あ」

 そこで、何となく分かってしまった。
 昨日の、夜。
 最遠寺に力試しをされる直前まで感じていた、気配。

「お前――だったのか、あれ」
「うん」
「うんって……。何やってたんだ?」
「お前と同じ目的だろう」

 同じって。

「じゃあ何か? お前もここ最近の殺人犯でも追ってるって言うのか?」

 また何で、と思う。
 その殺人犯が異端種であることは、恐らく間違いない。
 茜は異端にとっての天敵である、アトラ・ハシース。追う理由は分からないでもないが、わざわざ外国からこの国まで来るというのは、どういうことなのか。

「向こうで事件を起こした異端種を追っているんだ。しばらく消息が掴めなかったんだけど、この国に来たらしいことが分かって……理由は良く分からないが」
「おい、所長?」

 聞いたか、と俺は所長の方を振り返る。

「ああ、一応聞いてはいる」

 頷く所長。
 と、ちょうど上田さんがコーヒーを運んできてくれる。

「よくわかんねえけど、俺らの追ってる奴って、かなりやばい奴なんじゃないのか?」

 アトラ・ハシースほどの者が、わざわざ国外にまで追手を差し向けるほどの相手。
 何ていうか、俺の手に負える奴なのかと思ってしまう。

「――そうでしょうね」

 口を挟んだのは、今まで黙っていた最遠寺。

「アトラ・ハシースですら、もう三人ほど返り討ちにされているでしょう」
「……よく知っているな」

 ちらりと一瞥して、茜が言う。
 どうやら事実らしい。

「お前は?」
「わたしは最遠寺黎。九曜家のあなたなら、最遠寺の名くらいは知っているでしょう?」

 簡単な自己紹介に、納得したように茜は頷く。

「なるほど。最遠寺の家の者か。でもアトラ・ハシースとこの国との繋がりは薄い。唯一あるといえるのが、私の実家なんだが……」
「そうね。けれどわたしたちも、何もしていないわけではないわ。世界はもう、ずいぶんと狭くなったのだから」

 確かに最遠寺の言うように、例え今まで繋がりが無かったとしても、お互いの存在を知っている以上、いくらでも繋がりを持つようにすることはできるということか。
 と、所長が口を挟む。

「おいおい黎君。返り討ちにされているって、そんな話、おれは聞いてないぞ?」
「……ごめんなさい。けれど、まだ今回の殺人犯と同一という確証がなかったから」

 だから今まで触れなかったと、最遠寺は言う。

「ふむ。まあ今わかっただけでもいいがな。しかし……となると、おれが思っていた以上に物騒な相手ということになるな」
「……だな」

 俺も頷く。
 アトラ・ハシースを三人も返り討ちにできる力を持った奴、ねえ……。まともな相手じゃないな、それ。

「しっかしさ。そんなやばい相手なのにお前が派遣されるようになるなんて、ずいぶん認められているってことじゃないか?」

 茜がここまで派遣されてきたのは、こいつが日本人ということもあるかも知れないが、それだけでそんなやばい奴を追わせたりはしないだろう。

「別に……。そんなことよりも真斗。今回のことからは手を引いた方がいい」

 いきなり、茜はそんなことを言った。

「手を引けって、お前」
「私がここに来たのは、お前を見てもしかしてと思ったからなんだ。昨日私は柴城さんに会って、この町でのことを聞いた。その時は知らなかったけど、後でお前を見て……もしかして柴城さんの所に関係があるんじゃないかと思った。お前は九曜にいた。京都市で九曜の家と関係があるのは、計都神社か柴城さんのところくらいだからな」

 ……なるほど。

「で、わざわざ警告に来てくれたってわけか」
「そうだ」

 あっさりと、茜は頷いた。

「正直に言って、危険すぎる。相手はまともな精神じゃないだろうし、たぶん、力も尋常ではない。妖魔か魔族かそれはわからないけれど、間違いなく危険な人外のものだ」
「俺には手に負えない……ってことか」
「聞いたはずだぞ? そいつはアトラ・ハシースの者をすでに三人も殺しているんだ。殉職した彼らより私のランクが上だとはいっても、絶対大丈夫というわけじゃない。もしかすると私だって返り討ちに合うかもしれないんだから」

 それだけ相手のことは得体が知れず、危険であると、茜は言った。

「下手をすれば、お前も殺されるぞ?」

 ……こいつがこっちを心配して言ってくれていることが分かって、俺は小さく頷く。

「そっか。なるほどな」

 まあ俺自身、そんな危惧を持ちはしたのだが。

「けどさ、俺のことはいいとしても、お前は大丈夫なのか? 仮に俺が手を引いたあと、お前の死体でも見つかりでもしてみろ。目覚めが悪いったらねーだろ」
「その時は私は死んでいるから、私は気にならないぞ?」

 おい。

「俺が気になるって言ってるんだが」
「冗談だ」

 ……もうちょっと気の利いた冗談言えって。

「でも心配しなくていい。私はたぶん、真斗より強いから」

 ……む。
 いやまあ、それはそーだろうけど。
 でも何か傷つくぞ、その言い方って。

「お前さあ、もうちょっと気を遣えよな。俺が落ちこぼれでけっこう悩んで頑張ってたの、知ってるだろ?」
「私だってそうだ。何を今さら」
「レベルが違うだろうが。ったく……」

 確かにこいつは昔からこんな感じで遠慮が無かったけどさ。

「っていうか、そういう話じゃなくて、その相手がお前より強かったら、やっぱりお前もやばいだろうが」
「……うん。そうだな」

 そうだなって、おい。

「でも大丈夫だ。私も駄目だと思ったら、ジョーカーを使うから。……あんまり頼りたくはないけれど、死ぬよりはいい。私もまだ死にたくはないから」

 ……ジョーカー?

「何か切り札でもあるのか?」
「……たぶん」
「たぶんって、何なんだよそりゃ?」
「だからジョーカー。死神。この町にはそれがある……いるんだ。運良くか悪くはわからないけど。あれならば絶対に何とかなると思う」
「よくわからねーけど……まあ、お前がそんなに自信を持っていうんだから、大丈夫なんだろうな。安心しとく」

 きっと茜の協力者か何かなんだろうけど、よほど強いってことか。茜がここでま言い切るんだから。

「うん」

 こくりと、茜は頷く。

「それと、今話に出た死神のことだけど」

 何か思い出したように言う。

「死神って、ジョーカーのことか?」
「そう。もしお前がこれから関わるかもしれない異端の者の中で、彼女だけには関わるな。これは柴城さんにも言っておく」
「ほう」
「なんだ? その切り札って……異端種なのか?」

 珍しい話だ。
 異端のことは何から何まで毛嫌いしているアトラ・ハシースに、異端の協力者がいるなんて。
 まああり得ないことでもないか。毒には毒をもって……なんて言葉がある世界だし。
 しかも彼女ってことは、女ってことか。

「……それはよくわからない」

 俺の質問に、難しい顔つきになって、茜は言う。

「でもお前が仕事で関わることがあるとしたら、それは多分異端としてだと思う。あれは、その……何だか良くわからないんだ。何考えてるか今ひとつわからないし、怖いんだけど、けっこう優しいところもあるし……」

 茜自身、何やら困っているような様子だった。
 あさっての方向を見ながら、非常に喋りにくそうに話している。
 ……何か、気になるぞ。その切り札って奴。

「ともかく、関わるんじゃない」
「んなこと言ったって、そいつが誰だって事前に知らない以上、どこでどう関わるかなんてわかんねーだろ?」
「それはそうだけど……。たぶん、向こうから問題は起こさないとは思う……裄也がいるから。でもお前たちが馬鹿な関わり方をしたら、容赦無く始末されるぞ。危険度で言ったら、今回の犯人よりずっと危険なんだ」
「……そんな物騒な奴に、お前んとこの組織はよくパイプを持てたよな」
「違う。個人的な知り合いなんだ。アトラ・ハシースは彼女に恨まれているから、そうであるというだけで殺されかねない。私だって……」

 何やら思い出したのか、顔をしかめて口をつぐんでしまう茜。
 どうやら相当ヤバイ奴らしい。
 何かよく分からんけど。

「とにかく、もしどうしても会いにいかなければならなくなったら、玄関から会いに行け。そうしたら話くらいは聞いてくれると思う」
「はあ。……だとさ、所長」
「茜君が言うのなら、気をつけないとな」
「変な事件を拾ってこないでくれよ。……って、今回もう、拾ってきちまったみたいだけどな。で、どーすりゃいいんだ? 俺」
「私はやめろと言った」

 にべも無い、茜。

「う~ん……」

 唸る所長。

「大丈夫よ、桐生くん」

 茜とは反対意見を、最遠寺は口にした。

「あなた一人ならば確かに危ないけれど、わたしがいるのだから」

 ……そーいやこいつ、昨日パートナー宣言してったっけか。

「お前がどれだけできるのかは知らないが、真斗は別だろう。あれから努力をしたのかもしれないが、それでもたかが知れている。危険には変わりない」

 うーん……自覚しているとはいえ、ちょっぴり傷つくぞ、茜。そうはっきりと弱いと断言されると。

「過小評価のし過ぎよ。桐生くんならば役に立ってくれるわ」
「それならいいけれど……」

 不満な表情の、茜。
 俺は困ったように、所長を見た。

「そうだなあ……。まあお前を外すことはできる。バイトだし、断る権利もある。後の仕事は黎君に引き継いでもらうことになるがな。本当は、お前に黎君をサポートして欲しかったんだが」
「……柴城さん。私はあなたもこの件から手を引いた方がいいと思う」

 茜が言う。

「相手は本当に、危険なんだ」
「そいつは難しいな」

 渋い顔で、所長は頭を横に振る。

「黎君が派遣されてきたことからも分かるように、今回のことには上の連中も積極的に動いている。まだ確認の段階だというのにな」
「…………」
「……そういうわけでな、茜君。おれも立場が色々と微妙なんだ。九曜の君の意見は聞いておきたいところだけど、かといって最遠寺の方を無視するわけにはいかない。おれは今じゃ関西で動いてるけど、元々はあっちの出身だからな」

 まあ所長としても、立場的に苦しいところだろうな。
 その辺りに関しては、俺は落ちこぼれってこともあって、どうでもいいといえばどうでもいい。けっこう他人事なのである。

「では、共同作業というのはどうかしら」


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