終ノ刻印

第29話 幼馴染との再会①

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第29話

     ◇

「おはよーさん」

 最遠寺と二人、事務所のドアをくぐる。

「真斗か」

 事務所には、新聞片手にコーヒーを飲んでいる所長の姿。

「おや。お久しぶりですね、真斗君」

 と、別の場所から声がかかる。
 横を見れば、そこには長身の男が立っていた。
 眼鏡をかけた、いかにも人の良さそうな顔だ。

「あ、上田さんか。風邪はもういいのか?」
「おかげさまで。お二人とも、何か入れましょうか」
「そんじゃコーヒー……って、最遠寺のことは知ってるのか?」

 俺にしてみれば、二人が顔を合わせているところを見るのは初めてである。

「ええ、朝に」

 頷く最遠寺。それに上田さんも続けて言った。

「朝一にお会いしてますよ。ご挨拶はその時に」
「なーるほど」

 納得して、俺は事務所を見渡した。

「東堂さんは来てないのか」
「ああ。何でも昨日の張り込みが徹夜になったらしくてな。朝一で報告してさっき帰ったぞ」

 表向きの仕事とはいえ、なかなか大変なもんだ。
 まあそれはともかく、だ。

「最遠寺。客っていうのは」

 俺は視線で事務所の奥を指して、聞いてみる。
 そこには一人、見慣れない人物が座ってこちらを眺めていた。
 女。どう見ても俺より年下のようだから、少女といった方が適当か。

「そう」

 見覚えの無い相手に、俺は眉をひそめる。
 いったい俺に何の用だというのか。

 …………。
 待てよ……?

 何かが引っかかる。
 本当に知らない相手か……?

 と、ため息が聞こえた。
 目の前の少女が、これ見よがしに息を吐き出したのだ。

「……その様子だと、私のことなど覚えていないようだな」

 少女のわりには、ずいぶんとらしくない喋り方。
 それもまた、引っかかる。
 この妙に偉そうな態度。喋り方。
 確か昔、そんな奴がいたぞ……。

「お前――まさか」
「何だ。言ってみろ」
「……茜、か? 九曜茜?」
「そうだ」

 ぶす、として頷く少女。
 やっぱりそうか……!

 どうやら俺がすぐに思い出さなかったことが、お気に召さなかったらしい。
 だけどこいつと会わなくなってから、確か六年か七年はたっているはずだ。見た目だってあれからずいぶん成長している。しかもこいつの実家はここじゃないはずだし……?

「お前――何やってるんだ? ここで」

 俺は素直に疑問を口にした。

「それを聞きたいのは私の方だ。お前こそ、こんな所で何をやってるんだ?」

 ……二人して同じ疑問をぶつけるのって、何やら不毛だ。
 ちなみにこいつの名前は九曜茜。俺がずっと咒法やら何やらの知識と技術を学んできた九曜家の、娘である。
 こいつは現当主の次女で、長女もいるのだが、そっちの方と俺とはほとんど面識は無い。

 茜は七年くらい前に九曜家を飛び出して――つまるところ家出して、海外に行っていたはずだ。その間、俺はこいつと一度も会っていない。

 俺達が話し始めると、最遠寺やら所長やら上田さんやらは、興味ありげに聞き耳を立てつつも、とりあえず口を挟まずいる。
 俺は構わずに、茜の質問に答えた。

「……俺は下宿してるんだよ、京都に。大学行ってるからな。でもって俺がこんなとこに出入りしてるのは、仕事だ。お前も知ってるだろ? 一応級認定受けた奴は一人前ってことで、この手の仕事が回ってくるってことくらい」

 とりあえず、俺から簡単に説明する。

「そうか。一応柴城さんにお前のことは聞いている」

 事情は知っているが、あえて直接聞いたってわけか。

「……結局、ずっと九曜の家にいたのか?」
「まあな。お前はどーしてたんだ? あれから音沙汰無しだったけど」
「私は……アトラ・ハシースに入ったんだ」
「アトラ・ハシース?」

 その名は俺でも知っていた。
 対異端組織としては最も有名で、確か欧州に本拠がある組織の名だ。
 日本にある組織などに比べ、異端というものに対しての敵意が強く、どんな事情であれ異端ならば容赦しないという所である。その分、質は高く、高度な咒法・技術を使いこなす者が多いという。異端には最も恐れられている組織だ。

 そのアトラ・ハシースだが、日本にはあまり影響力を持ってはいないはずである。
 いくつか理由はあるが、まず日本にはこの国独自の組織があったこと。そして第二に、アトラ・ハシースが隠れ蓑に利用してきた宗教が、この国ではさほど普及しなかったことが原因だ。

 そういった宗教は誰にも知られてはいるが、ここは神様やら仏様やらがたくさんいて、しかもそのことを気にしないある意味無神論な国である。宗教の持つ力を利用してどうにかするということは、あまりできない場所なのだ。
 もちろん、比較的、という意味でだが。

「よく入れたもんだな。あそこって、なかなか厳しいんだろう?」

 よくは知らないが、とりあえず聞いてみる。

「その方が、自分には都合は良かったから」
「ふうん……そんなもんか」

 茜が家出したのは、確か姉の存在のせいだったはずだ。
 強くなろうとしたのも、そのため。
 俺がガキの頃からこいつは充分強かったのだが、本人にするととても満足できるものではなかったらしい。あまり出来の良い姉を持つと、妹は苦労をするという典型のようだった。

「……で? それはともかくどうしてここに?」


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