終ノ刻印

第23話 思わぬ修羅場

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第23話

     ◇

「なあ……お前ら?」

 事務所まで来て。
 俺は予想外の展開に、頭をぽりぽりと掻いた。

 事務所の中にいるのは、俺を含めて四人。
 面白げにこちらを眺めている所長と、俺の目の前でにらみ合っている女が二人。無論、由羅と最遠寺である。
 上田さんはまだ風邪が続いているらしく、今日も欠勤。東堂さんはすでに浮気調査に出掛けているとか。

 で、だ。
 問題はこの二人である。

「真斗……何よ、この女?」
「失礼な人ね? 初対面の相手に向かって」

 なぜだか知らないがこの二人、顔を合わせた瞬間から剣呑な空気が発生した。まるでお互い、因縁の敵同士のような感じである。……初対面のはずだが。

「桐生くん……これが所長の言っていた、おまけ?」
「そーだ」

 頷くと、由羅が怒った。

「おまけって何よ!?」
「その言葉通りの意味よ。桐生くんが決めた以上仕方が無いけれど、おまけはおまけらしく、身の程をわきまえてついてくるのね」
「あなた――!」

 一触即発という言葉がぴったりな、そんな状況。
 ったく、なんでこーなるんだか。
 このまま放っておいても仕方がないので、俺は二人へと口を挟む。

「ケンカするんだったら、俺は帰るぞ?」

 その一言はけっこう効果があったらしく。

「……わたしも少し、大人げなかったようね」

 言って、由羅から視線を逸らす最遠寺。

「……ふん!」

 由羅はというと、鼻をならしてそっぽを向いた。

 ……おいおい。
 何なんだこいつら……?

 由羅は明らかに最遠寺のことを嫌っているようだし、最遠寺もまた、冷静な表情は崩していないものの、言葉に棘がある。
 こいつら今日が初対面だろ……?
 しかも今会ったばかりだというのに、どーしたらこんなに仲が悪くなるんだろうか。
 相性、っていうやつかもしれないが、こうまで露骨だと、俺が戸惑ってしまう。

「はっはっは。朝から大変だな、お前も」

 呑気に言うな、所長。

「なあさあ……。俺が来るまでに、最遠寺に何か吹き込んだりしたか?」
「いいや。ただお前が昨日ナンパした女を、今日一緒につれていくとは言っておいたが」
「ナンパじゃねえって言ってるだろーが」
「まあ仮にそうだとして、だ。両手に花を持つ以上、それなりのリスクは負わないといかんということだ。がんばれ」

 リスクって……。
 じいっ、といつの間にやらこっちを見ている女二人。

 うあ。
 何かけっこう危険かも。

「ちょっと真斗……私がおまけってどういう意味よ?」

 自分が付属品扱いになったことが大層不満なのか、由羅はこちらの袖をくいくいと引っ張りながら聞いてくる。
 隣では、腕を組んで眺めている最遠寺。

「そのままの意味だよ。最初に約束していたのは最遠寺で、お前はついでだ」

 昨日こいつを誘ったのは、こいつをあまり一人にしておきたくなかったからだ。それ以上、特に深い意味があるわけでもない。

「不愉快!」

 だとしても、そんな大声で表明しなくてもいいだろうが。

「嫌だったら来なくてもいいぞ?」
「ああ、それはいいわね。そうしてくれると、わたしも嬉しいのだけど?」

 ……何でお前もそう、挑発じみた発言をするかなあ、最遠寺。

「そっちこそついてくるんじゃないわよ」
「おまけが主賓を追い返すって言うの? なんて無礼な人」
「おまけおまけって……!」
「ケンカするなって言っただろーが」

 俺が呆れたように口を挟むと、とりあえず二人は口をつぐんでくれた。

「俺はお前らみたいなでかい奴のお守をする気はさらさらないんだからな。ごねるよーならやめる。……いいな?」
「……仕方無いわね」
「我慢してあげるわよ……」

 うむ。よろしい。
 やはりビシッと言ってやるのが一番ようだ。

「さて。どこに行くかだけど、お前らリクエストとかってあるか?」

 腰を落ち着けて、まず俺は聞いてみる。
 京都は観光地というだけあって、見れる場所は多い。もっとも大体が神社仏閣であるが、好きな奴はたまらないだろう。

「私はよくわからない……けど」
「わたしも京都のことはあまり……。金閣とか銀閣とか、有名なものは知っているけれど」

 最遠寺があげたのは、確かに有名な場所だ。

「金閣ならここから近いけどな。近すぎていつでも行こうと思えば行けるからなあ……」

 それに俺はどちらかというと、銀閣の方がお勧めだ。別に銀箔は張っていないが、周りの庭園は金閣に比べてずっと風情がある気がする。
 もっとも建築物を見る、というのが主体ならば、金閣の方がいいかもしれない。文字通り金ぴかで、それなりに迫力はある。
 まあ個人の好みというところか。

「桐生くんのお勧めはどこかあるの?」

 お勧めねえ……。

「そうだなあ……。暇があれば片っ端から見て回るのが一番いいんだろうけど、今日は半日だしな……」

 時間的に、大して回れる時間でも無い。

「まあ俺も、京都のものなら何でも知ってるってわけでもないけどな。それでもそこそこ気に入っている場所っていえば……伏見稲荷かなあ」
「なに、それ?」
「鳥居がいっぱい立ってるところだよ。かなり雰囲気あるな。全部見て回るのはけっこうしんどいけど」

 とはいえそこはここからそこそこ距離があるし、全部見て回るとかなり時間がかかる場所だ。
 ただあの山から見下ろす光景はなかなかで、京都市の南の方が、かなり見渡せる。行けるもんならまた行ってみたい所だ。

「わたしはどこでも構わないわ。桐生くんがつれて行ってくれるのなら、どこにでも」
「うーん……いい場所だとは思うんだけど、時間がな。それに……」

 今はちょうど紅葉の綺麗な時期だ。
 せっかくこの時季に行くんだったら、紅葉狩りの方が期間限定な感じがして、いいかもしれない。

「南禅寺とかはどうだ? あそこの紅葉はかなり綺麗だからな。一見の価値ありとは思うが」

 それにあそこの豆腐は美味しいし。

「そうね……ちょうど紅葉が綺麗な時だから、いいかもしれないわ」
「そんなに……綺麗なの?」
「俺は桜の方が好きだけどな。けど紅葉も悪くないぞ。綺麗といえば綺麗だしな」

 人それぞれ感性というものが違うから、一概にどうだとは言えないけど、悪くはない場所だとは思う。

「じゃあそこに行く!」
「お任せするわ。桐生くん」
「あー、ちなみに真斗」

 不意に声を滑り込ませてくる所長。

「なんだよ?」
「おれは今日、人と会う約束があって、いつ帰ってくるかわからんからな」
「ああ」

 ――というわけで。
 俺たちは紅葉観賞と洒落込むことになったのだった。


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