終ノ刻印

第18話 歓迎会

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第18話

     ◇

 歓迎会が始まって、二時間近く。
 いつもよりやたらめったらテンションの高い東堂さんのせいもあって、適度に盛り上がってはいた。
 よほど最遠寺がやってきたのが嬉しかったらしい。いい歳して、まるで子供のようなはしゃぎ様である。

 で、その東堂さんはいつも以上のペースで酒を飲んだせいか、早々にダウンしてしまっていた。いかにも幸せそうな顔で、引っくり返っている。

「やれやれ……」

 そんな様子を見て、所長が苦く笑う。

「ずいぶん楽しいとこなのね」

 グラスを片手に、酔いが回っているのか少し頬を赤くして、最遠寺がそんな感想を口にした。

「まあ、酒が入れば人間なんて、こんなもんだよ」

 チビチビと酒を口に運びながら、俺は言う。多少は酔っているが、泥酔には程遠い。

「ふうん……。わたし、少し心配していたのよ? どんなところかわからなかったし、関西は初めてだし……」
「そういや関東だったっけか。東京とかに住んでるのか?」

 地元の知り合いは、他県に進学した連中のほとんどは関西に行った。親戚にしても昔の学友にしても、関東の知り合いは珍しい。

「違うわ。最遠寺本家は鎌倉にあるから」
「へえ。で、関西と関東って、何か違う?」

 こういう質問は、大学に入ったばかりの頃に、初めて知り合った連中と最初に話す時によくしたものだ。大学なんてところは色んな他府県から学生が来ているせいもあって、そういった地元の話だけでそこそこ話し込める。

「さあ……まだよくわからないわ。来たばかりだし。まあ気になったのは、喋り方、かしら。やっぱり少し違うわね」

 でも、と最遠寺は小首を傾げる。

「ここにいる人、関西の言葉じゃないのね?」

 この事務所の人間が、ということだろう。
 確かにその通りで、俺を含む皆が関西弁を話してはいない。

「ここにいるのは、みんな関西人じゃないからな」

 答えたのは所長。

「そうなの?」

 続けて俺が答える。

「まあな。俺は北陸の田舎出身だし……。だいたい京都って場所は、けっこうごっちゃ混ぜんなんだよ。学生の町とか言われてるくらいで、色んなところから人が集ってくるから。地元の人間はそれっぽい言葉でしゃべってるけど、大学とか行くとそうでもないからな」

 そのうち影響されてくるのは事実だが、やはり生まれながらのようにはいかないものだ。

「確かに真斗の言う通りだな。……慣れてくると、関西弁を話す相手にはこっちも軽い関西弁になるんだが、相手が地元の知り合いとかになると、普通に戻る。おれはここに来てからけっこうたつが、お前らと話してるぶんには普通のままさ」
「ふうん……」

 興味深げに頷く最遠寺。
 まあ色々と珍しいのだろう。

「……ところで桐生くん」
「なんだ?」
「飲み方がつまらない」
「…………」

 チビチビやってることを言っているんだろう。

「俺は未成年。下手な飲み方したら胃に穴開くんだよ」

 飲み方以前の問題で、お酒は二十歳になってから、である。
 大学に入って、それを守っている奴は見たことはないが。

「――でも、おいしくないわ」

 最遠寺はそう言うと、片手にグラスを持ってすっと流れるような動作で酒を飲む。
 ……こいつも大した歳じゃないだろーに、何でこうも飲みなれているんだか……。

「おお、真斗よりも男っぽい飲みっぷり」

 うるせいやい。
 拍手なんかするな所長。くそう。

「気を悪くしないでね。話したかったことは、別にお酒のことじゃないから」

 だったら単刀直入に言えっての。

「……話って?」
「明日、日曜でしょ?」
「――そうだっけ?」

 所長へと確認すると、所長はああと頷く。
 ……大学に行っていると、どうにも曜日の感覚が無くなってしまう。

「暇かしら?」

 ……なんだ? いきなり。

「暇といえば暇だけど」

 由羅のこともあるが、暇といえば暇だ。

「……なんでだ?」

 とりあえず聞いてみる。

「別に……大したことじゃないんだけれどね。さっきも言ったけど、わたし京都は初めてなのよ。京都っていえば、観光するところがたくさんあると思うし……」

 なるほど。
 つまりは案内しろということか。

「だから、ね?」
「俺がかい」
「嫌だって言うのなら、仕方ないけれど」

 そうとだけ言って、最遠寺は意味ありげに俺を見つめてきた。
 む……。
 なんだよこのプレッシャーみたいなのは……?

「……そこで寝てる人に頼んだ方が、多分泣いて喜ぶと思うけど?」

 東堂さんを指して言うと、そうかもね、と最遠寺は頷く。

「でもわたしは、あなたに頼んでいるの」

 むむ……。
 ……どーしたもんかなあ……。
 そんな様子を見て笑ったのが、所長だった。

「真斗、なーにうじうじ考え込んでるんだ? せっかくのレディからのお誘いだ。受けんでどうする」
「……そーだな」

 俺はこくりと頷く。

「黎君はお前と同じ仕事を担当することになってるんだ。ここらで親交を深めておいても、後々に助かるとは思うしな」

 なるほど。
 所長の言うことにも一理ある。
 同じ仕事だからといって一緒に行動するとは限らないが、コミュニケーションは円滑にできるようになっておいた方が、何かと便利だろう。

「ま、いいや。ただし半日な。それと今夜の仕事はパス。他にやっときたいことがあるんでね」
「そう? ありがとう」

 にこり、と微笑んで最遠寺は礼を言う。

「俺、今日何も持ち寄らなかったからな。サービスしてやる」

 俺は何となく顔を逸らして、そう答えた。
 ……あの由羅もそうだったが、こいつもなかなかどうして掛け値無しの美人だ。そんな表情で礼を言われると、どーにもむずがゆい。
 ……俺ってあんまり女に耐性無いのかもなあ。高校の時も……いや、まあいいか。

「さてと。俺ちょっと酔い醒まししてくるわ」

 明日にそんな予定が入ったとなりゃ、いつまでも飲んではいられない。ここで酔いつぶれてしまうと、この後何もできなくなってしまう。

「どこ行くの?」

 尋ねてくる最遠寺へと、公園、と答えてやった。

「そっちは適当に飲んで盛り上がっててくれ。今後のことで、所長と話もあるだろうしさ」
 俺は立ち上がると、所長の方を見る。

「……あとでちょっと相談あるから、酔っ払ってんなよ?」
「相談? 何だ?」
「あとでだよ、あとで。小一時間もしたら戻るから」

 怪訝な表情をみせる所長にひらひら手を振ると、事務所を後にした。


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