終ノ刻印

第4話 異端種

終ノ刻印 第一章 血染めの千年ドラゴン編 第4話

     ◇

 俺が大学に入ってから約八ヶ月。
 これまでに受けた仕事は、三件。どれもがまともな内容では無かった。

 世の中には色々と不思議なことがあるわけだが、こと日本において魑魅魍魎、妖怪変化というものは、そういった不思議の一つである。
 実在するかどうかはともかく、その存在は誰もが知識として知っている。しかし実際にそれらを目撃した者となると少なく、例えそう公言したところで大半が冗談として扱われてしまう。
 そのせいか、俺のような存在も、冗談として捉えられがちであった。

 調伏師・降伏師――西洋ではエクソシストなどと呼ばれる存在。
 呼び方は様々であるが、そういった一般とは一線を画す人材とそれらを擁す組織が世界にはいくつか存在し、またこの国にもあった。

 もっとも有名なのが、アトラ・ハシースと呼ばれるヨーロッパに本拠を置く組織らしい。彼らは日本で言う妖怪変化といった人間外の類をまとめて異端とし、抹殺の対象としているとか。

 異端種、と呼ばれる存在がある。
 アトラ・ハシースの影響がさほどないこの国ですら、現在ではその名がよく通っている。
 俺が今までに関わってきた仕事というのが、どれもがその異端種に関わるものであったことは言うまでもない。

 大学に入るまでの間、西日本では最も名の知られた調伏師の家系である九曜家にて、俺はその術を学んできた。そこで一人前と認められた者は、各地方にある九曜の下位組織の一員としての未来が待っている。
 しかし落ちこぼれとなると、また話は違ってくるのだ。いかに九曜というブランドが高くとも、そこに認めてもらえなければ引き取り手は存在しなくなる。

 俺の場合は運が良かったのか悪かったのか、そういった組織の情報収集の役割を担う出先にて――つまり柴城興信所にて、アルバイトという形で雇ってもらうことになった。ちなみにこの興信所は、九曜の関西における最大拠点である計都神社の末端組織にあたる。

 それが今年の四月のこと。俺が大学入学の為に京都で下宿するようになると同時に、どこからか情報を嗅ぎ付けてきた所長が、ふらっと俺の前に現れて勧誘したのである。

 それから三つの仕事を片付けてきた。八ヶ月でこの量は多いのか少ないのか分からないが、少なくとも順調ではあった。報酬も、まあ悪くない。かなり危険なこともあったが、それで嫌にならない程度には、この仕事のことを好いていたのかもしれない。とにかく無駄になるかと思われた技術を活かす事ことができ、今後ものんびりと仕事があれば受けていくつもりだった。

 だが今回は。

「どうも、なあ……」

 受ける前から感じていたことであるが、やはり気乗りしない。
 とはいえなぜそう思うのかというはっきりとした根拠も無い。
 だから余計にしっくりこないのである。

     ◇

 深夜の街中を、俺は一人歩いていた。

 時刻は午前三時過ぎ。
 俺の地元ではありえないことであったが、さすがにここは都会だけあって、夜中でもぽつぽつと人の歩く姿を見ることができる。

 それでも三時頃になってくると、さすがに人気はなくなる。深夜の客待ちのタクシーもいなくなり、市街地から離れた場所では完全に静寂に支配されていた。

 聞こえるのは、自分の足音だけ。
 防寒着に身を包んで、寒さに身を縮めながらゆっくりと歩き続けた。

 場所は、ここ数日通り魔殺人の起きている現場近く。
 簡単に遭遇できるとは思っていないが、まずは歩くしかなかった。

     /由羅

 ――夜。
 人の寝静まるこの時刻に、散歩することはいつのまにか日課になっていた。
 散歩――確かに寝付けない夜にはいいかもしれない。

 そう思って、夜を翔ける。
 もちろん、ただの散歩で終わらすつもりは無い。
 ここ最近の日課になりつつある愉しみを、今夜もするつもりだった。

「ふふ……」

 昨夜のことを思い出して、思わず笑みがこぼれる。
 三回目にして、何となくコツを掴んだような気がした。だからこそ昨夜は、今まで以上に長く……苦しみ悶える姿を見て、愉しむことができたのだ。

 再びそれを体感したくて、眼下を探した。
 今夜の獲物――生贄を。

 ふと目に止まったのは、酔っ払っているのか、千鳥足で歩いている女だった。
 あれで、いいかな。

 今まではずっと男だったから、ちょうどいいなと判断して。
 夜空を舞う私は、そっと地面に降り立った。


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