朝倉天正色葉鏡

第178話 北近江の戦い(後編)

朝倉天正色葉鏡 大坂独立編 第178話

 長浜城代であり、実質的な城主である江口正吉は、景建の命により包囲の解かれた長浜城より船にて脱出し、湖上の松永勢の所へと急行した。

 一方、景道は城内の将兵の大半をまとめ、追撃隊を組織。
 佐和山方面に向けて転進した織田勢の後背を討つべく、打って出たのである。

「やはり出てきたか。手はず通りにせよ」

 これに対して織田方は、冷静に対処。
 まず信忠麾下の斎藤利治隊七千が踏みとどまり、景道隊四千五百を迎撃。
 激しい乱戦となって朝倉方の動きが止まったことを見て取った信長は、自ら二万の大軍をもって突如反転し、戦場を迂回して長浜城を急襲したのである。

 さらに堀秀政の率いる別動隊二万弱は、そのまま佐和山城へと急行した。
 手薄となった長浜城では、景建自ら指揮を執り、城内に残る僅か数百の兵をもって奮戦。
 しかし程なく城門は破られ、怒涛の勢いで織田勢が雪崩れ込んでくる。

 ついには本丸にまで攻め込まれたところで、十分に織田方を引き込んだと判断した景建は、合図の狼煙を上げた。
 これを見ていたのが、湖上にあった松永勢の艦船である。

「合図じゃ」
「しかし父上。まことに――」
「あのままでは押し潰されるだけ。景建殿の意気を無駄にするでない」

 久通は意を決し、一息に命を下した。

「撃てぃ!」

 安宅船に搭載された複数門のカルバリン砲が火を噴き、長浜城とそれに殺到する織田勢目掛けて砲弾が次々に打ち込まれていく。
 射程の長いカルバリン砲による、艦砲射撃である。

 これには織田方も大いに慌てふためき、動揺が広がった。
 その混乱により織田方の動きが止まったのを見計らったようにして、城内の各地で大爆発が起きる。

 それらは城下にも飛び火し、事前に仕掛けられていた可燃物に燃え移って、長浜城とその城下はあっという間に火の海と化した。
 天守も例外ではなく炎に包まれたのを見て、久秀は溜息をつく。

「景建殿よ、まこと天晴れ。わしも最期はあのように派手にいきたいものじゃ」

 この長浜城の戦いで、城内にいた守備隊は全滅。
 景建も炎にまかれる前に自害して果てたが、巻き込まれた織田方の被害は甚大なものとなった。
 信長自身、負傷したほどである。

 長浜城の炎上を見た景道は、かねてから命じられていた通りに戦場からの離脱を図った。
 信長本隊の危機を見て取った斎藤隊もこれを深追いできず、景道の部隊は塩津方面に脱出することに成功する。

 一方、佐和山城に向かった掘隊は、天野川を幾度も渡河しようと試みたものの、猛烈な銃撃により迎撃されて、未だ渡河に至っていなかった。

「必ずここで食い止めよ!」

 朝倉方にて指揮するのは北条景広。
 未だ佐和山城攻略には至っていなかったが、色葉は景広に命じて天野川一帯に鉄砲隊を配置し、徹底的に織田方の渡河を阻止させたのである。
 これには秀政も手を焼き、一進一退が続くことになった。

 また佐和山城攻略を目指すのは、安土城から北上してきた乙葉と、新たに上陸を果たした松永勢である。
 元より城内に残る兵は少なく、城方は苦戦を強いられた。
 何より乙葉の疲れを知らない猛攻振りに、次々に門を突破され、もはや落城は時間の問題であったといえるだろう。

「まさに鬼神の如き、だな」

 船上で眺めていたわたしは、本気でそう思って感心する。

「色葉様も引けを取りませぬぞ」

 などと言ってくるのは直澄である。

「まあ、以前ならばな」

 できることならばわたしも陣頭に立ちたかったが、周囲があまりに反対するので御座船にて指揮を執ることになったこともあり、やや欲求不満ではあった。
 とはいえ戦況のわかるここで采配することで、迅速に対応できているのも事実だった。

「色葉様。松永殿の艦船が合流します」
「よし。こちらと隊列を組ませろ。景広も難儀しているからそちらを助けるぞ」

 わたしが用意した数十隻の安宅船のうち、大砲を搭載しているのは八隻。
 うち四隻はわたしの指揮下にあり、残りの四隻は久秀に預けてあった。

 その四隻がすでに発砲に至っていることは承知している。
 長浜城の炎上も見て取れた。
 万が一の場合に備え、長浜城ごと敵を巻き込んでの自爆は、事前にわたしが景建に与えた策の一つである。
 これを用いたということは、それほどまでに追い詰められた結果だった、といえるだろう。

 恐らく景建は生きてはいないな……。

「事ここに至った以上、織田の兵は一兵残らず討ち取れ。降伏など許さん。皆殺しにしろ」

 わたしの厳命は即座に全軍に伝えられ、緊張感が走ったようにも見えた。

「まずは景広と対峙している対岸の織田の兵どもに、大砲を打ち込め」

 この艦砲射撃はそこまでの命中精度があったわけでもない。
 しかし敵は無数の大軍。
 まぐれ当たりでも死傷者がうなぎ上りで増加し、何よりその防ぎようの無い威力に戦場は恐慌状態に陥った。

 やはり戦は火力がものを言う。
 わたしは徹底して予備射撃を行い、織田方が崩れ崩れ出したのを見て、上陸を指示。
 景広の隊も呼応して渡河を開始し、一斉に攻め立てたのである。

 これにより織田方の援軍は壊滅。
 わたしは時を置かずして長浜方面に進出し、長浜城下で手痛い損害を被った織田勢を強襲した。

 途中、防ぎにかかった織田信忠や斎藤利治の別動隊を蹴散らし、信長本陣へと肉薄。
 猛攻に猛攻を重ね、ついに織田本隊は態勢を立て直すことができずに総崩れとなって潰走する。
 姉川沿いに美濃方面に逃走を図る残兵に対しても追撃をかけ、多くの首を上げた。

 こうして激戦となった北近江の戦いは、朝倉方の勝利で幕を閉じたのである。


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